合同強化訓練こと柱稽古。嵐の前の静けさ故に可能となった、最終決戦に向けた訓練である。

「こんにちは、天元。私のこと覚えてるかな?」
「……あ!?あの時、俺を鬼殺隊に誘ったやつ!?」

 既に柱を退いた天元に話を通したのは私で、数年ぶりの再会に胸を躍らせた。
 天元は上弦ノ陸との戦いで片腕と片目を無くしており、左目には派手目の眼帯を付けていた。

「覚えててくれたんだ!改めて、産屋敷名前。お館様の姉で、最近炎柱を襲名したよ。今日はね、柱稽古の教官役を天元にもしてもらえないかなって、お願いしに来たんだ」
「情報量が多い」

 突然の訪問に対し、天元もそのお嫁さんたちも丁寧にもてなしてくれた。
 お嫁さんたちとほのぼのと会話をしていると毒気を抜かれたのか、天元はため息をついて頭を掻いた。
 柱稽古について詳しく説明を求められ、天元に任せたいことを伝えれば、少しも嫌がる素振りを見せずに引き受けてくれる。

「で?名前さんの担当は何なんだよ」

 他の柱たちと違い、敬語を遣わない天元はきっと胆力があるのだろう。友達になれた感じがして嬉しかったりする。

「私の担当は――」





「皆さん、ようこそ私の館へ。今日は丸一日使って、今尚しぶとく生き残っている上弦の鬼たちの情報を頭に詰め込んでもらいます。感覚派の方もいると思いますので、軽くで構いません」

 私の館で行うのは情報共有。
 戦いにおいて大切なのは情報。情報の有る無しで結果は大きく変わるのだ。
 特に長く生きた鬼は私たちの呼吸について、下手をすれば私たちより詳しい可能性まである。
 情報戦だけで言えば劣勢。それを覆すためにも、私たちも鬼について知っておく必要がある。

「最低一日。もっと学びたいのであれば、過去の報告書を館内であれば貸出も可能です。彼を知り己を知れば百戦して危うからず。昔から情報は大切であると言われています」

 元々私はそんなに動ける人間ではない。だからこそ、過去の報告書を沢山読んだ。時間の許す限り頭に詰め込んだ。
 それ故に鬼相手に機転を利かせて動くことが出来るようになったのだ。
 産屋敷家に生まれたからこそ出来たこと。それと同じことを学びたい人には学ばせる。
 覚えるという行為は中々難しく、やる気のある人にしか覚えられないから。

「伊之助、姿勢を正せとまでは言いません。机から足を下ろしなさい」
「はあ?別にどうでもいいだろうが!」
「自らの品位を下げるんじゃありません!」

 今日のために洋室に机と椅子を用意し、学校の教室のように部屋の物を配置した。
 猪の被り物をした、嘴平伊之助。野生児とは聞いていたが、ここは学校を想定した場所。服装は自由だが、風紀を乱すことは許されないのである。
 言うことを聞きそうにないため、ガっと足を掴んで無理矢理下ろさせる。

「駄目なものは駄目」

 少しだけ強く言えば、伊之助はこくんと頷いた。知らないだけで、ちゃんと言えば直してくれるのだ。
 偉いねと頭を撫で、早速授業を始めた。





 実際のところ。情報共有などと言いながら、軽く立ち居振る舞いの矯正も行っている。
 それは鬼舞辻無惨を討ったとき。この世から鬼は消え、鬼殺隊という生業が無くなってしまうからだ。
 今は粗暴な態度でも構わない。けれど、態度によっては産屋敷も仕事を斡旋することは難しくなってしまうだろう。
 長い間鬼を討ってきた鬼殺隊。その頭である産屋敷家は色々な方面に繋がりがある。だからこそ子どもたちが路頭に迷わないようにと、耀哉は輝利哉に様々なことを教えながら対策を既に練っている。

「我妻善逸……で合ってるかな?」
「ひえっ!はい!」
「話は慈悟郎さんから伺ってるよ。……災難だったね」
「何がですか……?」

 不味い。余計なことを言ってしまったかもしれない。
 私は定期的に耀哉と連絡を取り合っているわけなのだが、その中に桑島慈悟郎の弟子である獪岳が鬼側に寝返ったとの情報があった。そして、彼が責任を取って介錯なしの切腹を行うとも。
 慈悟郎さんが一人ですると決めたのであれば、私はその最期を見届けはしない。慈悟郎さんの現役時代に関わりのあった鴉が見届けるだろう。
 もう一人の弟子である善逸に話をしていないとは思ってもみなかった。全てが済んでから伝えるつもりなのだろうか。
 とりあえず、この場は誤魔化しておこう。

「雷に当たったって聞いて。それで髪色も変わったんだよね?」
「じいちゃんそんなことまで話してんの!?」

 いやー!!お姉さんに変な子だと思われる!!とぎゃーぎゃー騒ぐ善逸。こういう子は初めてだ。声の大きさだけであれば杏寿郎にも負けないだろうが、杏寿郎はこんなに声が高くない。
 過去の報告書から情報を詰め込んでいる他の隊士も迷惑そうにしているため、コツンと頭を叩いて静かにするように促した。

「え、ええ……?何その叩き方。すごく優しいですね……?」

 今までどんな叩かれ方していたんだ善逸は。
 そもそも人間、叩かれる機会なんてあまりなくない……?

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