参
良い話が二つある。
一つ目。炭治郎が義勇に粘り強く話し掛け、どうやら義勇には水柱としての自覚がやっと出たらしい。遅いとか言ってはいけない。ずっと、兄弟弟子である錆兎のことを気にしていたのだから。
二つ目。耀哉は珠代さんと愈史郎さんの居場所を突き止め、産屋敷邸へと招いた。そしてそのまま協力を仰ぐことが出来た。
珠代さんの協力はとても大きく、今は柱稽古を辞退したしのぶと薬や毒を作っているらしい。
鬼を人に戻す薬。上弦の鬼すらも殺す毒。
しのぶは人より体が小さく、鬼の頸を斬ることが出来ない。そんなしのぶはもうずっと、カナエを殺したあの鬼に縛られていた。
己が身を犠牲にしても、仇を討つつもりなのだろう。
さて、そんなしのぶの気晴らしも兼ねて。私としのぶは手合わせをすることになっている。
今日は炎柱の稽古という名の授業はお休みである。流石に過去の報告書は私の目の届く範囲で読んでいてもらわなければならないため、皆には次の稽古に行くように薦めてある。まだ知りたいのであれば、他の稽古を全て終わらせてからおいでとも。
にちかとひなきの案内の元、珠代さんたち三人のいる部屋までやって来た。
「初めまして。珠代さん、愈史郎さん。産屋敷名前と申します。この度はご協力感謝致します」
「いえ、こちらこそ」
丁寧に返してくれる珠代さんに対し、愈史郎さんは顔を背けて態度が悪い。出来れば仲良くしたいが、そんな時間もない。協力さえしてくれればそれで良い。
しのぶがキリのいいところまで終わらせるのを待ち、その後二人で庭まで出た。軽く体を解してから、呼吸は無しで打ち合う。
他の人との手合わせでは呼吸を使う決まりだが、しのぶの呼吸は毒を使うため禁止しているのだ。
「懐かしいですね。名前さんと手合わせだなんて、何年ぶりでしょうか」
「二年以上ぶり……かな」
私が上弦の鬼と戦った後。つまりはカナエが亡くなり、しのぶが柱を襲名してからだ。
「お互い柱として名前さんの横に立てて、実はとても嬉しいんです」
そう言って笑ったしのぶは今にも消えてしまいそうだった。
◇
信じられない程に穏やかな夜。床に伏せる耀哉を前に私やあまねとその子どもたちが集まっていた。
先見の明。未来を見通す力。産屋敷の人間はこの力が強いのだが、私自身はそうでもなかった。しかし恐らくではあるが、戦闘中にこの力に助けられてはいるのだと思う。
無惨が産屋敷邸へやって来る。だから自分を囮にして欲しいと耀哉は言った。
「最期までお供します」
覚悟を決めていたのは耀哉だけじゃない。
そして、娘が二人同じように付き添いたいと申し出る。
耀哉、貴方は本当に素敵な奥さんと出会えたんだね。素敵な子どもの父親になれたんだね。
「予定通りに事を進める。これについては行冥にも後を託しているから、姉さんも一人ではないよ」
一人で背負うことはない。そう全員に微笑んだ。
「一人でも多くの子が……死なないように」
勿論だとも。そのために私も尽力しよう。
震えを隠す輝利哉の背を撫で、反対の手をぎゅっと握りしめた。
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