斬って、走って、斬って、走って。繰り返す。
 その内に幾つもの報告が上がった。
 上弦の弐、撃破――しのぶが死んでしまった。
 上弦の壱、撃破――無一郎と玄弥が死んでしまった。
 参も、新たな陸も倒した。けれど、無傷ではない。きっと沢山失った。

「名前!コッチ!モウ雑魚ハ相手シナイデ!無惨ガ!」

 ヤシロが叫んだ。
 嗚呼、腹が立つ。お前が憎い、鬼舞辻無惨!
 どれだけの尊い命を踏み躙った!どれだけの人を傷付けた!
 その姿がハッキリと見えた。大切な隊士たちを殺している。喰らっている。珠代さんももう限界だったんだ。姿がない。
 これ以上は殺させない。私が足止めする。

「炎の呼吸壱ノ型、不知火」

 こちらに気付いた鬼舞辻の意識がこちらに集中する。鍔迫り合い。まあ、相手は腕なのだが。

「退却命令!柱を見つけ次第、此方へ誘導しろ!」

 残った者が移動を開始する。
 鍔迫り合いは相打ち。距離を取って離れる。
 無惨は愉しそうに笑った。

「会えて嬉しいぞ」
「ええ、私も、とても嬉しい」

 上から目線。相変わらず嫌なやつだ。
 死んでもここで食い止める。後に繋げるのが私の役目だ。
 どうやら無惨は話をする気があるようで、こちらもこちらで時間稼ぎをしたいがために乗ってやることにする。

「お前も鬼にしてやろうか?」
「冗談」
「本気だ」
「なら、尚悪い」

 抑えろ。理性を保て。
 答えれば、もう用はないとばかりに襲いかかって来た。本当にどうしようもない奴!
 ひたすら呼吸を使った。こんなに繰り返して使ったのは初めてだ。けれど、呼吸を幾つも繋いで戦うことは柱同士での手合わせ中にコツを掴んでいる。
 ピリピリ、ぴりぴり。意識がはっきりしているはずなのに今にも飛んでしまいそうだった。集中している。相手の一手がちゃんと見えている。けれど、理性を無くして猛攻してしまいそうだ。
 私は自分が思っていたよりもずっと鬼舞辻が嫌いで、怒っていたらしい。
 かすり傷が多い。至る所から微量の出血。動けなくはないが、止めても止めてもキリがない。
 相手はどんなに切り落としてもすぐに修復してしまうから嫌になる。それでも決して動きを止めない。止まらない。

「しつこい」

 何を言っているんだ、こいつは。しつこいのはそちらだろうが。
 一歩踏み出そうとして誰かに肩を掴まれる。振り返れば、義勇と炭治郎がいた。
 完全に意識を鬼舞辻に向けていて、気が付けなかったらしい。
 鬼舞辻無惨は生きていてはいけない存在だ。
 お前たちは生き残ったのだから良いだろう?何も良くない。だって、大切な人たちと生きていきたかったのだから。
 私に殺されたのは大災だと思え?お前は神にでもなったつもりか?
 死んだ人間は生き返らないのだから、そんなことに拘るな?どの口が言うんだ。
 私たちが異常者?それはお前だ。

「炭治郎の言う通りだ。鬼舞辻無惨は生きていたらいけない。地獄で罪を償って、人の心を取り戻してからじゃないと話にならない」

 二人を庇うように前に出る。

「無惨の腕は伸縮性がある。間合いも広い。なるべく私が弾くから、数分は感覚を掴むことに集中してね」

 優しく、意識して。仲間に八つ当たりはしたくない。

「でも名前さんは傷が……!」
「炭治郎、集中」
「っ!……はい!」

 敵は待ってくれない。伸ばされた腕がまたも襲いかかってくる。
 私はなるべく盛炎のうねりで弾き、余った分は義勇は凪を使って上手く捌く。炭治郎が間合いを詰めて怪我を負ったが、義勇が回収したため大きな問題は無い。片目くらいなら大丈夫だと思わなければ。
 それに人の心配ばかりしていられない!
 時間稼ぎという目的は知られている!にわかには信じ難いが、蜜璃と小芭内もやられた!
 優先して狙われたのは炭治郎だ。一番場数が少ない子。私たちの誰かを狙うのであれば、私でも炭治郎を狙う。嗚呼、分かっていたのならもっと何か出来たはずだ。でも、今助けに動いたところで間に合わない。私も私で手一杯だ。

「やめなさいよー!!」

 蜜璃が生きていた。小芭内も炭治郎を助けてくれた。
 はっ、と息が漏れる。まだ気を抜いてはいけないぞ、私。

「何をしている鳴女!!」

 琵琶の鬼の名前だろうか。
 瞬間、城が軋んだ。場所がすぐに変わる。
 誰かが鳴女と戦っているのだろう。戦えそうなのは……愈史郎さんか?これも耀哉の狙いの一つだったのかもしれない。
 鬼舞辻の様子が明らかに変わった。残っていた冷静さが消え、ただただ苛苛している。削るなら今しかない。
 義勇は肆ノ型、小芭内は壱ノ型、私はその間を縫って伍ノ型で胴体を狙う。切り落とせはしなかったが、かなり抉れたので良しとしよう。

「名前さん!あまり無茶をしないでください!」

 小芭内に注意されるが、無茶をした記憶はない。けれどその心配は有難く受け取り、礼を伝えると視線を鬼舞辻の方へ逸らしてしまった。
 また居場所が変わる。柱勢は慣れてきたが、炭治郎はまだ慣れずに上手く着地が出来ていない。
 鬼舞辻の猛攻は止まらないが、蜜璃を守るために炭治郎が鬼舞辻の頭へ刀を投げた。その刀は綺麗に鬼舞辻の頭を貫く。
 そしてやっと、城がまた動き出し、

「外だ……」

 私たちは地上へと戻ってきた。場所は市街地。夜明けまでは一時間半もある。
 でもこれは、大きな一歩だった。

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