鬼舞辻は先程までよりも荒々しく攻撃を仕掛けてくる。
 動かなければと思うが、瓦礫に足を取られてしまった。刀を口に加えて、足の上の物を持ち上げる。
 そうしてふと、目に入った手足が血に塗れていたことに気付いてハッとした。これだけ汚れてしまっていれば、そりゃあみんな心配してしまう。
 毒にも侵されて皮膚が膨らみ、動けるのが不思議なくらいだった。
 鬼舞辻は切ったと同時に体を修復させてしまう。
 そして、攻撃を避けられなくなってしまった柱を隊士たちが肉壁となって救った。
 悲しくて、哀しくて、悔しい。絶対に勝たなければいけない。だからまず、私に戦わせろ瓦礫!
 毒が回る。攻撃の一つ一つに毒が仕込まれていたのだ。そんなの最初から予想済みだったとも。もうそんなものは知らない。
 私の存在に気付き、残った隊士が私を瓦礫から引っ張り出してくれた。何人かは私の顔を滴る血を拭き、出血の多いところは止血を施してくれる。
 足の骨は折れたみたいだが、今動かない訳にはいかないのだ。

「みんな、ありがとう。もう少しだけ頑張ろう。大丈夫、勝とう。」

 近くにいた、サラサラとした髪の子を撫でる。ああ、この子。義勇の同期の子だ。一度だけ会ったことがある。
 行冥と実弥が合流した。そして、義勇が彼の名を呼ぶ。

「村田ーー!!」

 村田。村田というらしい。
 義勇は今までにないくらい大きな声で炭治郎の手当を頼んだ。ならばと彼を持ち上げ、炭治郎の元まで連れて行く。
 ポカンとされてしまったが、男一人くらいなら運べるのである。体格にも寄るが。
 毒に侵された炭治郎の姿は悲惨だ。私も人のことは言えないのだが。
 そして鬼舞辻を見据えた瞬間。固まる。
 見えるのだ。鬼舞辻の臓器が、骨が、血の流れが。驚いたのはそれだけではない。心臓が七つ、脳が五つある。
 自分の肉体すらも弄っているのか気持ち悪い!

「炎の呼吸弐ノ型、昇り炎天!」

 そうだ、気持ちが悪い!人であったはずなのに人の心がちっとも分からないのも、何もかもが!

「名前さん……!?」
「気にしないで、前を見て!」

 実弥の驚く声にすぐに返事をし、集中させる。集中しなければすぐに死ぬ!仲間のためにも穴を開ける訳にはいかない!
 鬼舞辻の攻撃の速度が上がった。なのにどうしてか、全部見えてしまうのだ。
 蜜璃が鬼舞辻の攻撃を避けるが、鬼舞辻の腕についた口が動いていることが視認出来る。

「蜜璃!しゃがんで!」
「え!?」

 間に合わない。左耳を抉られた。
 ガリッと歯を食いしばる。
 小芭内が蜜璃を安全な場所へ運んでいくのを見て、四人でそれを邪魔させないように動いた。

「あの腕についた口!吸息が可能!」

 それだけ言えば彼らはそれすらも計算に入れてすぐに行動に移せる。
 少しでも再生時間を遅らせるためになるべく切り離すようにして。致命傷を負わないように避けながら。
 義勇の手から刀が離れる。助ける?でも、今は人を助けている余裕なんて自分には!
 ――それでいいの?後悔しない?

「してしまうに決まってる!」

 私ってどうしてこうも切羽詰まると頭が固くなるんだ!後悔しない道を歩む。そうすれば私の全てを杏寿郎が肯定してくれる。
 今自分の成すべきことに義勇を助けることは含まれないのか?含まれるだろう!
 慈悟郎さんに教わったことを思い出し、グッと足に力を込めた。そのまま義勇の体を抱えて避ける。
 今までにないくらい足が痛い。それもそのはずだ。瓦礫に一度埋まってしまっていたのだから。
 鬼舞辻の腕は小芭内と行冥で押さえつけ、落とした刀をこちらの足元へ実弥が投げる。

「ボケっとすんじゃァねぇ!!」

 私もボケっとしていました。ごめんなさい!
 毒が回る。みんな、限界が近い。
 そこに何かを背負った猫がやって来た。猫の背にあったものは私たちの体に刺さり、猫は鬼舞辻によって体をグチャグチャにされる。
 毒?薬?いや、これは珠代さんたちが作っていたものか!
 即効性のある薬だった。歪んだ皮膚が一瞬にして元に戻る。一時的なものかもしれないが、夜明けは近い。日が昇るまで動ければ充分だ。
 鬼舞辻がより暴れる。癇癪持ちの赤子……いや、年寄りだな。
 途端、何故か小芭内の動きが止まった。見れば、恐らく酸欠状態での失神。
 急いで彼を抱えて飛ぶが、体勢を上手く変えられそうにない。すると、ぐっと何かに引っ張られた。
 また、鬼舞辻の腕が斬り落とされる。
 誰かがいる。漠然と、何故か確信を持った。
 鬼舞辻の攻撃によって現れたのは伊之助、善逸、カナヲの三人。
 伊之助が落としたお札は……愈史郎さんの!彼の血鬼術を使ったらしい。
 小芭内が赫く燃やした刃で鬼舞辻に追撃すれば、先程までよりも再生が遅くなっていた。
 三人が来てくれたことで行冥は自身の力で赫刀へと変化させる隙が出来、更に実弥と義勇はお互いの刀を合わせることで赫刀へ。
 摩擦で出来る。ならば!懐から短刀を取り出し、その短刀と普段から使っている日輪刀を擦り合わせた。耀哉から貰った大切な短刀。こんなところで役に立つとは思わなかった。
 じわりと目頭が熱くなり、懐かしい思い出に頬が緩む。
 ぎゅっと目を瞑ってまた開く。溜まってしまった涙が一粒零れ落ちた。

「カアアア!夜明ケマデ一時間三分!!」

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