カアテンコオル
――これは鬼がこの世から居なくなり、百年近く経ってからのお話。
「あれ、名前ちゃんどうしたの?疲れてる?」
「燈子ちゃん」
そうなんだよね……と親友である我妻燈子に縋り付く。
日本最高齢記録を更新したとかで、一緒に住んでいるひいひいおじいちゃんにテレビやら何やらの取材が家に沢山来ているのである。私の親族はみんな良い人だから、それを断りもしない。それに私も巻き込まれてしまって朝から大変だったのだ。
危うく学校に遅れてしまうところで、困っていたところを警察の方に助けてもらってしまった。あの人たち、顔は恐いけど優しかったな。
何時もは登校途中に双子の赤ちゃんを連れたご家族と、ちょっとだけお話し出来る時間だってあるのに……。最悪だ。
あの子たちとは双子の弟くんが横断歩道を渡る時にスカートの裾を掴んで離さなかったのが出会い。やけに懐いてくれていて、二人ともとても可愛いのだ。
「それでパトカーに乗せてもらえるっていう貴重な経験をしたんだけど」
「パトカーに!?」
「うん、送ってもらってね。それで……その……」
首を傾げる燈子ちゃんに目を逸らしながら続きを話す。
「炭彦くんがどうも、七件も通報を受けているらしくて……。友達が警察に止められそうになっているのを知って気まずくて……」
「炭彦くん……」
先生に話が行ってしまったし、きっと注意を受けるんだろうな。
それの何が恥ずかしいって、炭彦くんが止められそうになっても気付かない中、桃寿郎が一緒にいたことだよ。何で気付かないの、あの人は!
机に突っ伏す。あの人はそういうところがあるのだ。いやまあ、だからって嫌いになったりはしないんだけど。
「名前ー!!」
「桃寿郎」
教室のドアをパンッ!と大きな音を立てて開く。そのままズンズンと近付き、私の前の席へ遠慮なく座った。
お昼休み。お弁当をいつも一緒に食べているので、教室まで来てくれたのだろう。
学年が違うため、好奇の目で見られることが多いのだが、彼は気にしないらしい。
顔を上げると、目前に桃寿郎の顔がある。近い!
そのまま額と額をくっつけられ、教室からきゃー!という黄色い悲鳴が上がった。
「熱はないな。どうした?具合が悪いのか?」
「……大丈夫」
「顔が赤いぞ?」
「大丈夫!!」
この無意識男!すぐそういう格好良いことをする!
でも彼は純粋に心配してくれているだけなのだ。慌てるだけ損。照れるだけ損だ。
「……心配してくれてありがとう」
「彼女のことだからな!当然だ!」
ニカリと笑う桃寿郎。そんな彼に釣られて笑った。
「バカップル……」
呟いた燈子ちゃん。
桃寿郎のせいで否定は出来ないけれど、燈子ちゃんにだけは言われたくないよ!無意識イチャつきバカップル!まだ付き合っていないみたいだけどさ!
「そうだ!父が出張で金平糖を買ってきてくれてな。名前は好きだっただろう?」
そう言って小さな袋に余すことなく詰められた、カラフルな金平糖を桃寿郎がくれる。
確かに金平糖は小さな頃から大好きだ。素朴な味だが味わい深い。
「好きだけど、桃寿郎に言ったことあったっけ?」
「言われてい……る?……ない?」
あれ?と二人で首を傾げた。
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