グランドフェスティバルはいよいよ開幕!
娘の一世一代の大舞台ともなれば見に来てくれるものなので、大事なタマゴは両親に預けている。観客席にも連れて行き、生のコンテストを一緒に応援してくれるそうだ。
ネックレスにいつも付けているタイプアイコン。今日からはでんき、みず、ひこう、ノーマル。サイズ違いのものを全て付け、控室の鏡の前でくるりと回転。ボールから出ているピカチュウを見習い、笑顔を作った。
「ドカンと一発!よろしくね!」
「ピーカ!」
拳を握り突き上げたピカチュウをボールに戻し、既にシールを貼ったボールカプセルをその上に被せる。
どんなに努力したって必ず報われるわけじゃない。ハルカもヒカリもグランドフェスティバルでの優勝経験はないし、セレナもカロスクイーンにはなれなかった。ヒカリの幼馴染でありライバルであるケンゴはグランドフェスティバルで一次審査で敗退している。
現実になっても同じだ。生優しい世界ではない。
改めて前髪を整え、スタッフの呼び声で控室を後にした。
◇
いつもより大きな会場。故にキャパ数も多く、お客さんの声が沢山聞こえてきた。
一次審査はアピール審査だ。
ふっと息を吐き、ボールを投げる。
エレキシールとスパークシールに包まれてピカチュウが登場し、シールのエフェクトを『10まんボルト』で吹き飛ばす。
進化して電気の扱いに長け、ボルテッカーだって使いこなせるのだ。もうピカチュウの電気は『でんきショック』のレベルではない。
落下するピカチュウをキャッチし、私の両手を足場にする。私が投げるのと同時にピカチュウは高くジャンプし、ウインク。『メロメロ』だ。
黄色い悲鳴が上がり、ピカチュウは満足気に笑う。
そのままパルクールのように会場の壁を『アイアンテール』で殴り、客席へアピール。しっかりとピカチュウが目視出来る距離に来ただけで観客は大喜びだ。
フィールドの中心に『アイアンテール』状態の尻尾を突き刺して戻ってきたピカチュウは、そのままもう一度『10まんボルト』。フィールド場に電気が漂い、まるでエレキフィールドのようだ。
ピカチュウは地面にやっと足を着けると、次は『10まんボルト』をしたまま回転。ブレイクダンスのような動きをする。カウンターシールドでフィニッシュ。
尻尾を地面に刺す。これはマチス戦でサトシのピカチュウもやっていたりする。
無印14話。ジムリーダー、マチスの手持ちはライチュウ。相当強力な相手であり、沢山の挑戦者のポケモンがポケモンセンターに運ばれていた。その様子に怯えたピカチュウは初めは戦いたくなかったものの、敗北を経験してからは悔しさが勝った。ライチュウに勝つならピカチュウもライチュウに。差し出されたかみなりの石をピカチュウは拒否。ピカチュウはピカチュウのまま、ライチュウに勝つのだと。再戦にて強力なライチュウのでんき技に対し、ピカチュウは尻尾を立てアース代わりにして攻略。その後、見事に勝利している。
また、その戦い方を新無印18話でクチバジムのジムリーダー代理の前でやって見せ、PWCS──ポケモンワールドチャンピオンシップス初戦を白星で飾った。
他にもフィールドの状態を書き換えるのもサトシの得意技の一つなので、参考にさせてもらっている。
例えばDP187話でサトシのゴウカザルは『あなをほる』を覚えており、地面の中から『フレアドライブ』を使用することで、撒かれていた『どくびし』を破壊している。
「ぴかちゅ!」
絶妙な電力でパチパチとフィールドが煌めく中で決めポーズ!
拍手喝采。全力を出し切った。
ピカチュウは私の肩に乗り、ファンサービスを続けている。
私も私で大きく手を振りながら、一度ステージを後にした。
◇
グランドフェスティバルは一次審査が行われる一日目。そこから上位三十二名から行われる二次審査バトルパフォーマンスが二日目に。上位四名を残し、三日目午前に準決勝、午後に決勝というスケジュールになっている。
「名前!二次審査進出おめでとう!」
「ハルカさん!」
「やだ、ハルカでいいって」
ピンク色のアイドル衣装を身に纏ったハルカが控室で声を掛けてくる。そう、当たり前ではあるのだが、彼女もグランドフェスティバルに出場しており、私たちは既にライバルなのだ。
私もハルカも上位に食い込み、無事に明日からのバトルパフォーマンスに参戦出来る。
バトルパフォーマンスはダブルバトルとなっており、手持ちの少ない人ほど情報戦でそもそも不利なのだが、それを乗り越えてこそだと考えている。
「順当にいけば、私たちが戦えるのは決勝ね。お互い頑張りましょう!」
「はい!」
握手を交わす。
簡単にはいかないことは承知の上。その上で決勝でハルカと戦い、トップコーディネーターの称号を手にしたいのだ。
◇
手持ちが三体となれば、ダブルパフォーマンスで試せる組み合わせは三種類。二日目はその全ての組み合わせを試しながらの連戦。何とか準決勝へ進むことが出来た。
さて、グランドフェスティバル三日目。勝っても負けても今日で全てが決まる。
既にハルカは準決勝を勝利で飾り、午後の決勝進出を決めていた。私の知っているアニメでのハルカの最高記録はベスト四なので、既にそれ以上の結果が決まっているというのは感慨深いものがある。
カントーグランドフェスティバル。ハルカにとって二回目のグランドフェスティバル挑戦。好敵手であるシュウとのバトルで、初めて勝利したのが印象的だ。苦戦を強いられるも、パートナーであるワカシャモの新技であるオーバーヒートでシュウを追い詰めたのだった。AG182話。
「さあ、セミファイナル二戦目!両者ポケモンの準備を!」
司会の指示に従い、ボールを両手に持つ。
「制限時間はグランドフェスティバル特別ルールにより十分。参ります!」
プン!タイマーの時間が減り始める音がする。その音に合わせ、ボールを投げた。
「ピカチュウ、オオスバメ!おねがい!」
「ラプラス!ユキメノコ!」
しっかりとアピールをしながら四匹がフィールドに揃う。暗黙の了解というやつなのだが、登場時に相手の妨害は決してしてはならない。バトルゲージも登場時のアピールで変動はしないので、皆んな守っている。というのもボールから出てきたポケモンの邪魔をすることは、コンテスト界では自己紹介の邪魔をするようなものなのだ。
「ラプラスはあられ!ユキメノコはオーロラベールよ!」
あられ状態でのみ使える『オーロラベール』は味方ポケモンの防御と特防を上げる技だ。またその見た目の美しさから、ポケモンコンテストでは上級者がよく使っている。事実、私のポイントゲージはそれなりに下がっていることだろう。
だからこそ、また使う機会があると思ってこの技を忘れさせてはいなかった。
「ピカチュウ、気にせずオーロラの中に突っ込んで!」
「なに?オーロラベールの効果を知らないの?ラプラス、ウェザーボールよ!」
相手の女性は私より年上で、何度かグランドフェスティバルに出場経験がある。最近ではテレビ出演も多く、その実力に違わない、プライドの高い人だと知られている。
あられ状態の『ウェザーボール』はこおりタイプの技に変化する。
オオスバメとアイコンタクトを取り、タイミングを見計らった。
「アイアンテールで弾き返して!」
接近しながら飛んできたウェザーボールをピカチュウが弾いたその瞬間。オオスバメは羽を大きく広げ、空気を切る。『きりばらい』だ。
フィールドに広がっていたオーロラが消え、驚愕している間に『ウェザーボール』はラプラスに命中。
そう、『きりばらい』には命中率を下げるだけではなく『オーロラベール』を消す効果もあるのだ。
ポケモンが成長すればする程、ゲームとは違って技を使用せずとも霧を払うことぐらい容易くなってしまう。それを理由に態々『きりばらい』を覚えさせているトレーナーの数は少ないのだが、経験が浅い私たちは自分達のアピールのために覚える必要があった。そして新たな技を覚える過程で、『きりばらい』の技の効果を調べたのが功を奏したのだ。
しかし『あられ』の効果は消えないので、毎ターン、ピカチュウとオオスバメの体力が削られていくことには変わりない。
「今度はこっちから仕掛けよう!ピカチュウ、オオスバメの背中に乗って!」
「させないわ!ふぶき!」
あられ状態の『ふぶき』は必中。
何とか堪えようとするも、二匹からの『ふぶき』に技なしでは耐えられずにピカチュウとオオスバメは吹き飛ばされる。すぐに体制を立て直したが、オオスバメにとっては『こうかはばつぐん』なので大きく体力が削られてしまった。
だったら一か八か。
「ピカチュウ、突っ込んで!」
「無駄だって分からないの?もう一度ふぶき!」
「ボルテッカー!オオスバメはフェザーダンスで風に乗って!」
『ふぶき』が吹き荒れる中、オオスバメは『フェザーダンス』で風の流れに身を任せた。ダメージがないわけではないが、『ふぶき』の中で自由に舞っているように見えるだろう。
対してピカチュウは『ボルテッカー』で真っ正面から突っ切っていく。じわり、じわりと『ボルテッカー』が『ふぶき』で凍っていく。
そう、これが目的。こおり状態になったように見せかける、氷のアクアジェットや氷のシャンデリアならぬ──氷のボルテッカー。
一発で成功出来たのはピカチュウの優れたポテンシャルがあったからだ。
オオスバメとひっそりとまたアイコンタクトを取る。
驚愕とその美しさに見惚れている間にピカチュウはラプラスに突撃。そのまま飛び跳ね、空を飛びながら輝くオオスバメの背中に着地した。
『ゴッドバード』の準備が完了している。
「ぁ……ユキメノコ、シャドーボール!ラプラス、ハイドロポンプ!」
「ピカチュウ、援護!」
ピカチュウが『シャドーボール』を『ウェザーボール』の時と同じように『アイアンテール』で弾き返していく。小さな体に似合わない力強さだ。
真っ直ぐ前進するオオスバメは強化された自身の羽根で『ハイドロポンプ』を物ともしない。
「ピカチュウ!ユキメノコにメロメロ!」
決着を着ける。
メスしか存在しないユキメノコに、オスである私のピカチュウが『メロメロ』を使用して魅了。オオスバメの邪魔はこれ以上させない。
力強さの次に可愛らしさをアピールしたピカチュウに会場もメロメロだ。
「スバァッッ!」
凛々しい鳴き声に視線が移る。
オオスバメが急降下し、『ゴッドバード』がラプラスに命中。すかさず『フェザーダンス』で敵には目眩しを、観客には羽根の美しさをアピールしながら相手と距離を取る。
──と、ここでタイムアップ。
セミファイナルを制したのは私たちだ。