氷のアクアジェットとはDP編の旅の仲間であるヒカリが何度も挑戦していたコンテストアピール。成功させる前にサトシのエイパムとポケモン交換をしてしまったのだが、それをサトシがミクリカップで成功させている。それぞれ交換回はDP55話、氷のアクアジェットを使用した回はDP78話だ。ミクリカップ自体はDP77話〜79話にかけて行われている。
 ちなみにミクリカップとはDP75話で開かれることが言明された、元ジムリーダーにしてホウエンチャンピオン、そしてマスターコーディネーターであるミクリによって開かれるポケモンコンテストのことである。

「あの、大丈夫ですの?やはりご両親とお食事をなされた方が良かったのでは……」
「あ、いやいや!うちの親は午後の部のチケットは取れなかったみたいだからさ。それより、本当にタマゴ預けていいの?」
「折角の晴れ舞台ですもの。名前さんだってこの子に見せてあげたいでしょう?」

 コンテスト会場の控室。決勝前にお昼休憩が挟まれ、今はツツジを呼び付けて二人で食事を摂っている。
 一度会場から人を全員出すこともあり、準決勝と決勝でチケットが別なのだが、私の両親は決勝のチケット戦争に敗北してしまったため、戻ってくることはない。今は予約してある近くの居酒屋に居り、そこで生放送を観ながら応援してくれるそうだ。何でも店主と知り合いなこともあり、一番テレビに近い席を特別に用意してくれるため、お店が開店する前にひっそりと先に席に着くのだとか。
 そんな事情もあり、折角だからとツツジを呼んだのだ。ツツジはジムリーダーとしてのコネを使ってでも全日のチケットを取ると言ってくれていたのだが、豪運で全てのチケットを自力で手に入れてドン引きしている。そんなことある?

「ご飯、減りませんね……」
「緊張してて。でも、みんなは大丈夫そう」

 ドキドキどころかバクバクと鳴る心臓。箸がちっとも進まないのだが、ピカチュウたちはそうではないらしい。それどころか、普段より沢山食べており、コンテスト協会からの差し入れが全て無くなってしまいそうだ。

「みんなはすごいね」

 堂々としている。
 ピカチュウたちは目を合わせると、一斉にこちらを向いた。

「ぴぃか!」
「スバッ!」
「グォォ!」

 皆んなして私に擦り寄り、オオスバメはその羽毛で冷え切った私の体を温めてくれた。
 ほっと息を吐き、一匹ずつにお礼を言って頭を撫でていく。

「ではわたくしもお邪魔して」
「え、え!?」

 ツツジがぎゅうっと抱きついてくる。ポンポンと私の背中を叩いた。

「楽しんできてくださいね」
「……うん!」





 三つのモンスターボールが揺れる。一つだけボールカプセルが着いていない。この子は決勝を見守ってくれる子。本当は出たかっただろうに我慢してくれている。だからこそ、この子のためにもより良いパフォーマンスをしなくては。

「さあ、お待たせ致しました!グランドファイナル決勝。いよいよ開始です!」

 司会の合図に合わせ、ボールを投げる。
 私が出したのはピカチュウとギャラドス。対してハルカが出したのはバシャーモとアゲハントだ。
 この世界のハルカは元々ジムを制覇しチャンピオンになったポケモントレーナー。バシャーモはその時からのパートナーだ。今までは初めからコンテスト向きに育てられたポケモンが相手だったからこそ出来た立ち回りも、バトル向けに育てられていたバシャーモ相手では難しくなってくるだろう。
 バトルとコンテストを極めた革命児とも呼ばれているハルカは戦いにくい相手だ。技一つ喰らっただけで致命傷になり得る。

「アゲハント、ぎんいろのかぜ!」
「ギャラドス前に出て!りゅうのまい!」

 『りゅうのまい』の回転で『ぎんいろのかぜ』のダメージを減らしつつ、一枚上手であることをアピール。しかしハルカのポケモンの攻撃は一撃が重い。ギャラドスが痛みに反応したことがすぐに分かった。この手を二度は使えないだろう。
 ギャラドスの巨体に隠れていたピカチュウが現れ『アイアンテール』。即座に気配を察知したバシャーモの『ブレイズキック』からの『スカイアッパー』でピカチュウは吹き飛ばされる。

「ピカチュウ!?」
「いいわよ、バシャーモ!アゲハント、サイコキネシス!」
「アイアンテールで壁を叩いて!ギャラドス!」

 何とか着地しようとしたピカチュウが『サイコキネシス』で再度壁に飛ばされそうになるが、何とか『アイアンテール』を使用することでダメージを減らす。
 これ以上の追撃を許してはならない。呼ばれたギャラドスはすぐにそのことを理解し、アゲハントに向かって『こおりのきば』を当てるが、すぐに『あさのひざし』で体力を回復されそうになる。

「阻止して!10まんボルト、りゅうのいかり!」
「させないわ!バシャーモ、オーバーヒート!」

 『10まんボルト』と『りゅうのいかり』がバシャーモの一撃で打ち消される。
 思わずチートかよと絶望しそうになる程の威力に舌打ちが漏れた。

「ギャアアアア!!」

 ギャラドスが雄叫びを上げる。悔しさからかフィールドを尻尾で叩き、威嚇をしている。
 ピカチュウもビリビリと頬袋から電気を漏らし、尻尾をクルクルと回した。
 二匹ともまだまだやる気だ。思い通りの展開にならない苛立ちで思考を邪魔しちゃいけない。
 大きく息を吸い、ゆっくりと吐く。
 ──そうだ、あれを試してみよう。
 やりたいことは決まった。ならばやるべきことはまず、相手を誘導すること!

「ピカチュウ!アイアンテール!」
「何か仕掛ける気ね。アゲハント、迎え撃つわよ!つばめがえし!」

 ピカチュウとアゲハントがぶつかる。二匹の間に出来る隙を元々バトル向けのトレーナーだったハルカが見逃すはずがない。

「ブレイズキック!」
「アクアテール!」

 バシャーモの技をギャラドスが受け止めるが、威力が桁違いだ。体格差があるはずなのにそれを物ともしない。
 ハルカの咄嗟のバトルの勘を真似することは出来ないけれど、こうする可能性があると予測することならまだ出来る。
 交戦的な性格なバシャーモは自分の技を止め切ったギャラドスに目を付ける。そしてそれをハルカが汲まないトレーナーではない。

「スカイアッパー!」
「ピカチュウ、援護!10まんボルト!」
「させないわ!アゲハント、サイコキネシス」

 『サイコキネシス』の指示が出た途端、ピカチュウは自ら考えて動く。ブレイクダンスを踊りながらの『10まんボルト』。即ちカウンターシールドで『サイコキネシス』を相殺。
 フィールドを大きく使う二匹の技に近付くことが出来なくなったバシャーモは足を止め、ハルカは新たに指示を出す。

「バシャーモ!オーバーヒート!」
「それを待ってた!ギャラドス、ハイドロポンプ!」
「え!?」

 炎と水。相反する力がぶつかり合うそれは──炎と水のフュージョン。
 フロンティアブレーンのヒースがAG153話でダブルバトルで見せたコンビネーション。ヒースのバトルスタイル自体がコンテストバトルに似ており、アニメではハルカがこれを何度か利用している。

 いくら炎に対して水の相性が良いとはいえ、生半可な実力ではハルカのバシャーモの技に押し負けてしまう。
 これはギャラドスの力強さがあったからこそ出来たのだ。
 ギリギリのコンテストバトル。なのにどうしてこうも楽しいのだろうか!
 残り時間はもう数十秒。ここで決める。

「バシャーモ、スカイアッパー!アゲハント、ぎんいろのかぜ!」
「ピカチュウはボルテッカー!ギャラドスはもう一度ハイドロポンプ!」

 全力のパフォーマンスがぶつかる。
TOPBACH