『いのちのしずく』で『ボルテッカー』を使用中のピカチュウの体力が回復していく。
 二つの技の輝きを身に纏ったピカチュウが相手のポケモンをバトルアウト。歓声に溢れる会場。
 そんな映像が空港のテレビで流れる。

「ちゅき!ちゅっき!」
「うん、楽しかったね」
「ちゅっき〜!」

 抱っこされたトゲピーは手足をバタバタとさせながら、初めての公式大会が楽しくて仕方がなかったと毎日何度も語ってくれる。
 そう、ヨスガシティで譲られたあのタマゴから孵ったのはトゲピーだった。グランドフェスティバルが終わってからそう経たずに生まれてきてくれたこの子は、今ではみんなの可愛い弟分だ。
 アニメで登場したトゲピーもタマゴから孵り、生まれて初めて見た生き物はカスミで、彼女をお母さんだと思って懐いてしまった。それからはいつもカスミの腕に抱かれていたトゲピー。しかし、そんなトゲピーも守られる側から守る側になり、別れは訪れるのだ。無印46話でタマゴで登場。無印50話で孵化し、AG45話で進化とお別れを経験している。
 カスミのトゲピーとは別個体の、目付きも性格も悪いトゲピーのお話もあるのだが、それについては口を閉ざさせてもらう。知りたい方はDP142話をチェックしてほしい。

 自分のトゲピーがもしカスミのトゲピーと同じように……と想像して既に泣きそうだ。親バカである。
 オオスバメの羽根の中で温められながら生まれてきたトゲピーはオオスバメをお母さんだと思っているようで、よく手をバタバタしながら飛ぼうとしている。だからなのかは分からないが、『ゆびをふる』使用時のひこう技が出る確率が非常に高い。将来、進化をしたいと自ら望むかもしれない。
 ピカチュウはトゲピーのために尻尾をふりふり動かし、猫じゃらしのようにして遊んでいる姿をよく見かける。
 ギャラドスはその巨体でトゲピーを傷付けないようにそうぉっと頬擦りしたり、逆に懐っこいトゲピーがギャラドスの背中で遊ぼうとした時には動かないように必至だ。そのカチンコチンに固まってしまうことがトゲピーに面白がられているのだが、ギャラドスはそれに気付いていないらしい。

「あ、あの!名前さんですよね……?」

 空港ラウンジの椅子に腰掛けていた私たちに茶髪の男の子と女の子が緊張したように声を掛けてくる。
 変装用に掛けていた眼鏡をずらし、そうだとにこりと微笑むとワッと二人は湧き上がる。

「コンテスト!優勝おめでとうございます!」
「俺たち、ずっと名前さんのファンで……!グランドフェスティバルも凄かったです!綺麗で、迫力があって、歴代のコンテストバトルの中でもトップクラスだってニュースを見て嬉しくなってしまって……!」
「ありがとう。グランドフェスティバルは負けちゃったけどね」

 グランドフェスティバル決勝。結果はバトルアウトでハルカたちの勝利だった。ポイントゲージだけ見れば私たちが勝っていたが故にあまりに惜しかった。
 悔しいけれど全てを出し切ったバトルに、どこか清々しい気分だったのを鮮明に覚えている。
 あの日以来、特別有名人になってしまい、変装をしなければ外を歩けない程である。それでも気が付く人は気が付くので、人の目とは恐ろしい。
 腕の中のトゲピーをあやしていたピカチュウがウインクをしてファンサービス。その真似をしようとしたトゲピーが両眼をぎゅっと瞑ってしまい、あまりの可愛さに女の子が悶える。

「かわいっ……!」
「おい、アオイ!あ、えっと、名前さんもパルデアに行くんですか?」
「うん。そっちのスクール……アカデミーに留学させてもらえることになってね」

 ジムリーダーをしながらスクールに通っている生徒がいるのだから、コーディネーターをしながらスクールに通っても良いはずだ。そうゴリ押ししたところ、ツツジからの援護もあって学校側からパルデア地方のアカデミーを紹介されたのだ。
 アカデミーでは毎年宝探しと呼ばれる課外授業の期間が存在しており、丁度グランドフェスティバルの開催時期と被っている。そのため、宝探しの一貫としてコンテストに参加するのは有りだろうと交渉が進んだのだ。
 大分特別扱いされてしまうことになるが、パルデア側からの条件として、パルデア地方の宣伝を行うことで合意している。

「そうなんですか!?俺たちもアカデミーに入学するんです」
「そうなの!?入学ってことは一年生?私は二年生だから後輩だね。仲良くしてくれたら嬉しい!」
「わっ、そんな!こちらこそ!」

 握手を求められ、それに応じていると乗機のアナウンスが流れる。
 向かう先はパルデア地方。私が聞いたことのない土地の名前だ。ジムもあるので、もしかしたら私が知らない未来で、ゲーム中に旅をすることが出来たのかもしれない。
 飛行機に乗り込む。
 周りのお客さんに迷惑をかけないようにファーストクラスの席を取っており、ピカチュウやトゲピーサイズならボールから出していても問題はない。
 トゲピーにとっては初めての飛行機なので、窓の外を見て目をキラキラと輝かせている。

「知らないポケモンだ……!」

 パルデアに近づくに連れ、私が見たことのないポケモンたちの姿が見え始める。
 あれはパルデア版そらをとぶタクシーだろうか。色々な体の色をした、まるでリーゼントをしているかのようなポケモン。ほぼフラミンゴにしか見えないポケモンや、勿論元々知っているハネッコたちの姿も見える。アーマーガアが何かに撃ち落とされたように見えたのは気のせいだろうか。
 新品のパルデア地図を膝の上に広げながら、何となくではあるが気になる場所を確認していく。
 あの大穴が特に気になるが、立ち入り禁止らしい。何て怪しい。
 早く飛行機から降りたい。風の匂いを感じ、耳を澄ましてポケモンたちの声を聞いてみたい。居ても立っても居られない!
 サトシは初めての地方に足を踏み入れた時、いつもこんな気持ちだったのだろうか。
 バトルで世界一になった憧れのサトシと、コンテストで世界一になれなかった私。目指す先は違うけれど、彼のようになりたいとずっと願ってきた。それでも彼には中々追い付けない。
 けれど、折角ポケモンのいる世界に私は生きているのだ。いつか必ず追い付き、いや、追い抜かしてやる。

「ぴぃか?」
「次こそ、優勝しようね」
「ぴか!」
「ちゅっき!」

 ギャラドスとオオスバメの入ったボールも返事をするかのように震える。
 最高の仲間たちと共に、憧れを超える存在に絶対になってやる!
TOPBACH