「お、親方ーーーー!!!空からコイキングが!」
「私は博士だが!?」

 相棒のピチューを頭に乗せ、空から落下して来たコイキングを抱えてオダマキ博士の研究所に駆け込む。
 目の前に突然現れたときには自分もコイキングも死んでしまったのかと驚愕したものだが、私は無傷であるし、コイキングはひんし状態。
 ポケモンセンターのないミシロタウンでは頼れる相手が研究所の人しかいないのだ。





 ポケットモンスター。縮めてポケモン。ちなみに海外ではポケットモンスターは下ネタになってしまうため、ポケモンという名前しか使われていない。
 この場合の海外とは日本以外の国を指している。
 そう、私は転生者であった。ただし私はポケモンのゲームをそう長くはプレイしたことはなく、トレーナーズスクールでのポケモンバトルの授業ではそこそこの成績しか取れていない。
 ポケモントレーナーズスクール。名前の通り、ポケモントレーナーになるための学び舎。アニメ版でも何回か登場しており、サン&ムーンに登場したポケモンスクールとポケモントレーナーズスクールは同一の物であるかは不明。新無印に於いても、サトシの仲間のコハルやゴウが通っている学校もポケモンスクールだったはずだ。
 XYシリーズで精神面が成長したサトシはサン&ムーンにて学校生活を送ることで子どもらしさ、初心を思い出しアローラチャンピオンとなった。最高に素晴らしい。拍手喝采。
 XYシリーズでチャンピオンになっても可笑しくはない程の強さを見せてはいたが、冷静に考えてもサトシの相棒のピカチュウがラスト一匹に勝利することでチャンピオンにならなければ、それはそれで違和感を覚えていたことだろう。エースポケモンは各地方におり、ここに格差を作ってはならない。
 やはり最後はピカチュウが決めなくては!
 ――と、皆様既にお察しであるとは思うのだが、ここで私は宣言しておこう。
 私はアニポケ、及びサトシガチ勢である。
 故に私はこの世界でもサトシをリスペクトしているのだ。残念なことにこの世界はアニポケではなく、ゲームに近い世界観であるため、ポケモントレーナーのサトシは存在しなかった。シゲルではなくグリーンが存在していた。
 残念ではあるが、あまりに身勝手で失礼なことであるため、今ではそう思ってしまったことを反省している。

 さて、私がどれほどサトシをリスペクトしているのかと言うと、初めてのパートナーがピチューであることからもお分かりいただけるだろう。
 サトシのピカチュウがピチューだった頃の話が新無印の第一話であるため、是非とも全人類に観てもらいたい。ピチューはなつき進化だが、どうやってピカチュウに進化したのか……とかね。圧倒的可愛さなので、癒しが欲しければ是非。欲しくなくても是非。
 私とピチューの出会いは必然であり、転生者である私の自我が目覚める前、赤ちゃんだった私はピチューやピカチュウの模様や形のグッズに過剰に反応していたらしい。これが不思議なことにライチュウグッズへの反応は他の二匹に比べて薄かった。
 当然である。サトシのピカチュウはピカチュウのまま強くなると決めたのだ。そう、あれはクチバシティのマチス戦。当時はまだ恐がりであり、バトルジャンキーではなく、ちょっとぽっちゃりしたピカチュウだった頃。以下省略。マチス戦は無印14話。そのマチスのジムがあるクチバシティを拠点にしているのが新無印である。

 兎に角、ライチュウでは駄目だったのだ。
 父と母にとって初めての子どもであった私は可愛くて仕方がなかったらしく、私がトレーナーズスクールに通える年になると、ブリーダーからピチューを譲り受けてくれたのだ。以降、私とピチューはサトシとピカチュウにも負けないくらいの仲の良さである。
 一緒にいるからこそ、ピカチュウに憧れはあるが、進化するもしないもピチューの望む通りにすれば良いと思う。
 進化を望むか望まないかの話で思い出したのだが、サトシのフシギダネはフシギソウにとっくに進化が可能なのだが、フシギダネ自身が進化を拒んでいる。グライガーは進化を望んだが、今のままではまだ駄目だとサトシがグライガー自身に言い聞かせて共に特訓をした。新無印でサトシを助けたいと願って進化したカイリューが手持ちになった瞬間は多くの人が大歓喜したことだろう。それぞれ無印51話、ダイパ85話、新無印10話の出来事である。グライガー回にはシゲルも登場しているぞ。
 進化回は総じて神回なので、今回はこれで終了とさせてもらう。

 サトシをリスペクトしているのにバトルは得意ではないのか。と疑問に思う方も沢山いるだろう。それに関してはちゃんとした理由があるのだ。
 そもそも私は前述した通り、ポケモンのゲームをそう多くプレイしたことはない。理由は簡単。育成が苦手だったのだ。
 個体値や努力値等は言葉だけ知っており、詳しいことは知らない。タイプ一致?だとかがあったような気がするが、そこまで手を伸ばさなかった。
 私がポケモンのゲームで楽しんでいたのはストーリーとミニゲームである。
 具体的に名前を挙げるのであれば、コンテストにポケスロン、ポケモンミュージカルである。他にもポロックやポフィン作りも極めていた。
 波乗りピカチュウは挑戦したかったのだが、そもそもポケモンコロシアムの勝負に勝てなかったため、波乗りピカチュウ自体プレイ出来ていない。それだけバトル向けの育成が苦手であった。
 波乗りピカチュウと言えば、サトシのピカチュウとはまた別のピカチュウが登場したお話は複数あるが、この中に波乗りピカチュウをモチーフにしたピカチュウが登場した話もあり、そのままタイトルは『なみのりピカチュウの伝説』。無印69話。世代でないため分からないのだが、なみのりピカチュウはアニメとゲーム、どちらで先に生まれたのだろうか。ワンチャン、カードが先?教えてエロイ人。

 スクールにはエリートトレーナー候補が少数ながらいる。彼らはポケモンに関する知識が研究者に近いくらいに豊富であったり、バトルに於ける勘が鋭い。努力で知識はつけられるが、それを実戦で活かせるかどうかは場数か才能で決まる。
 場数を踏むためにはどうしてもお金が必要になってしまうのがこの世界だ。
 スクール内での私闘では負けた側が勝った側にファイトマネーを支払う必要はないが、いざ外でポケモンバトルを行うとなるとそういうわけにもいかなくなる。
 年齢やトレーナーとしての実力で支払う金額は変わってくるが、自分でお金を稼げない子どもには人とバトルをすることすらハードルが高い。だからと言って、スクール内で同じ人とばかり勝負をしていても学べることは少ない。
 だからこそ、将来的にポケモントレーナーとして食べていくには、子どもの頃からの両親からの惜しみない協力が必要だし、そうでないのなら才能で勝負するしかない。
 ある意味で世界に通用するスポーツ選手と同じようなものだろう。
 残念ながら、私には天才的なバトルの才能はなかった。
 だが、伊達にサトシのバトルを画面越しに観ていたわけではない。普通のバトルは苦手でも、コンテスト向けのバトルはむしろ得意だった。

 十歳を超えた今。私はピチューと共にコンテストに出場していたが、最近の結果は準優勝で終わっている。
 この世界のコンテストは大会によって行うことが変わり、アニポケのような技を使ったアピールの一次審査からバトルの華麗さを競う二次審査で勝者が決まることもあれば、ゲームのようにコンディションや技のアピールのみの場合、ドレスアップ審査やダンス審査等の総合評価で決まる大会も存在する。
 アニポケと同様でグランドフェスティバル優勝を目指すのが、この世界のポケモンコーディネーターだ。
 サトシもコーディネーターの仲間と旅をすることがあり、サトシの奇策の多くはコンテスト向けの見栄えがするものが多かったりする。サトシ自身がコンテストに参加したことも複数回あり、非公式大会のトネリコ大会はアドバンスジェネレーション(以降AG)で共に旅をしていたハルカとのラストバトル。コンテストに興味のあるエイパムのために参加したコトブキ大会。ミクリにスカウトされてブイゼルと戦ったミクリカップ。ブイゼルはダイヤモンド・パール(以降DP)の旅の仲間であるヒカリと交換したポケモンである。コンテストがしたいエイパムとバトルがしたいブイゼルで交換し合い、それでもブイゼルがサトシのポケモンになってからコンテストに出場したのは最高に盛り上がった。それぞれAG191話、DP11話〜12話と77話〜78話の話である。

 私とピチューは最後の最後で上手くいかず、まだコンテストの賞金で食べてはいけないので、実家のあるミシロタウンで大人しくしている。
 十二歳になるまでの二年間様子を見て、コンテストやその他副業で食べていくことが出来なければ一度学生に戻るつもりだ。
 この世界にはポケモントレーナーズスクールの生徒が旅に出る等の理由で休学を決めてから五年以内であれば、元の学校に何時でも戻ることの出来る制度がある。
 子どもがファイトマネーだけで食べていくには限界があるのだ。世の中そう簡単にはいかない。
 だからこそガラル地方はジム巡りという大きなイベントを一年に一回行い、更にポケジョブというポケモンの派遣の仕事を作っているため、トレーナーの育成に優しい環境となっている。イベント事なので、協力してくれている大人は子どもの参加者のサポートに手厚いのだ。
 対して他の地方では完全に本人任せなところがあり、バトルに勝てなくなってしまうと家に帰る他ないが、逆にその環境が強いポケモントレーナーを多く排出する要因となっているとも言える。
 この辺りが子どもの旅の安全性やらで賛否両論あるのだが、どちらも間違ってはいないので結論が出ることはない。何せこの世界では十歳はほぼ成人扱いなので。何よりレッドの存在、功績がデカ過ぎる。

 今日も今日とてピチューと二人でコンテストの反省会を行っていた。
 コーディネーターとしての経験の差を考慮し、ゲームのように四つのランクに分けられて大会が行われており、どのランクのリボンが五つ集まってもグランドフェスティバルに任意で参戦出来る。尚、自身のランクについては運営側からの通達でランクアップが行われるため、そこは公平である。
 私のランクは今、スーパーランクだ。
 コンテストバトルで負けてしまうのは一重に経験の少なさからであるため、時間をかけていくしかない。ただ、総合審査はどうだろうか。
 やはり技のアピールが上手くいかない。前回大会ではゲームのようなボルテージでの評価ではなく、単純にアニメでの一次審査のようなものを行ったのだが、そこで差が着いているように思える。

「ぴーちゅ……」
「違う、ピチューは悪くないよ。私がまだまだってだけだから」
「ぴちゅ!ぴちゅぴちゅ!」

 そんなことはない!ぼくが悪いんだもん!と訴えてくるピチューの頭を撫でる。
 101番道路の隅っこで体操座りをしながら、大会のことを思い出す。
 いつもあと一歩で上手くいかない。爪の甘いコーディネーターだと言われているのも知っている。なまじ、ノーマルランクで快進撃を続けてしまっていた分、期待の声が大きかった。
 私だけが馬鹿にされるなら良いのだ。でも、ピチューは違う。ピチューの悪口だけは許せない。ピチューは可愛くて頼もしくて、そんな彼の魅力を引き出せない私が悪いのだ。……と、ピチューもピチューで同じようなことを逆の立場で考えており、似た者同士のパートナーである。
 頭を抱えていても仕方がない。そろそろ帰ろうと立ち上がったその瞬間、私の目の前に赤い何かが落下してきたのだった。





 オダマキ博士の研究所で手当をしてもらったコイキングはタフで、入れてもらった水槽でご機嫌に鼻歌を歌っていた。

「メスのコイキングみたいだけど、その、この子は……」
「やっぱり大きいですよね!?」

 通常、コイキングは九十センチ程のサイズなのだが、このコイキングは全長が私の身長と同じくらい。重さを測ってみると約二十キロあり、研究所に辿り着いた私はぶっ倒れた。火事場の馬鹿力だったらしい。

「傷口からして、野生の鳥ポケモンに攫われたのだと推測出来るよ」
「ここまで運んでこられたんだ……」
「恐らく、その鳥ポケモンも運ぶ最中に疲れてしまったのだろう。ほら、嘴の痕がある」

 嘴の痕は複数あるが、全て場所が近くサイズも同じため、一匹が何度か咥え直したと考えられる。それにしても、コイキングのサイズに対して嘴の痕が小さくないか……?
 抉れてしまっている部分があるため、早めにポケモンの専門医に見せた方が安心なのだが……とオダマキ博士は私たちを見遣る。
 ポケモンの交換機能でポケモンセンターへコイキングを送ろうとしたのだが、コイキングが博士のボールに入ることを嫌がってしまうのだそうだ。

「なるほど。それで床がこんなにびちょびちょに」
「すごく跳ねてね……。天井にぶつかっていたよ」
「たまに水滴が天井から垂れてくるのはそういう」

 褒めてはいないのだが、コイキングは誇らしげに一鳴きした。もしかしなくてもこの子、とても面白い子なのでは?

「コイキング」
「ココッ」
「あのね、怪我をちゃんとしたお医者さんに診てもらいたいの」
「ぴちゅ!ぴーちゅぴちゅ!」
「ココッ?」

 水槽横に置かれた脚立に登り、コイキングに触れる。しっとりとしているが、ちゃんと筋肉に覆われているのか以外にも硬い。
 私たちが心配しているんだよ、とピチューもコイキングに身振り手振りで説明してくれている。かわいい。
 会話中、肩に乗ったピチューが驚いた声を上げたかと思えば、嬉しそうに私の肩から下りて行き、テーブルの上に置かせてもらっていた私のポシェットをゴソゴソと弄る。取り出したのは未使用のモンスターボールだった。
 小さな体で運んでくれたモンスターボールを脚立から降りて受け取ると、ピチューはコイキングを指差した。

「こら、人もポケモンも指差しちゃいけません!」
「ぴちゅ!?……ぴーぴちゅー」
「分かればよろしい。コイキングもごめんね」

 気にしていないとばかりにコイキングは笑うと、視線をじっとモンスターボールへ向けた。次に私の目を見つめ、何かを訴えてくる。
 ここまでしてもらえれば私にも分かる。
 この子はきっと、私にゲットしてほしいと言っているのだ。
 もう一度脚立の上に登り、モンスターボールを起動する。

「本当にいいの?」
「コココッ」

 コイキングが体を縦に動かし、水槽の水が揺れる。
 それじゃあ、と傷のないところにモンスターボールをカチリと当てた。
 いち、に、さん。ボールが揺れ、ロックがかかる。オダマキ博士から貰ったポケモン図鑑にコイキングのデータが登録された。

「コイキング、ゲットだぜ!……なんちゃって」
「ぴちゅ?」
「あーやめてやめて忘れて!ちょっと恥ずかしくなってきた!」

 つい勢いでサトシの真似をしてしまったが、ピチューの何それ?とでも言いたげな表情に恥ずかしさが勝ってしまった。
 きゃーきゃー真っ赤になった顔をしゃがみこんで隠していると、オダマキ博士が話しかけてくる。

「きっとそのコイキングは自分を助けてくれたトレーナーのポケモンになりたかったんだね」
「え?」
「キミのポケモンになりたいから、他の人のボールには入りたくなかったんだ。だから少し暴れてしまったのだろう」

 そう、なのかな。ピチューがにこにこ笑っているし、そうなのかもしれない。

「さあ、その子をポケモンセンターに送ってあげよう。コトキタウンのジョーイさんが預かってくれるよ」
「はい。よろしくお願いします」

 コイキングの入ったモンスターボールを博士に手渡す。
 博士がジョーイさんと連絡を取り合っている間にポシェットからポケナビを取り出し、母にコイキングのことを説明するメールを送る。その子が心配だから、今日はコトキタウンのポケモンセンターに泊まります。とも。





 コイキングは跳ねる。
 アニポケではアプリ、はねろ!コイキングの要素を取り入れた同名タイトルのお話があったりしたのだが、私のコイキングも訳が分からないほどに跳ねる。
 ちなみに『はねろ!コイキング』は新無印26話だ。前半が『はねろ!コイキング』、後半が『かぶれ!ヤドキング』というアニポケ屈指のカオス回。アローラを思い出す雰囲気であった。

 私のコイキングは無事にジョーイさんからの治療を受け、傷跡ひとつ残らずに帰ってくることが出来た。
 一度コイキングの故郷に連れて帰ってやりたいと思い、大きな水辺があるトウカシティに寄り道をしてから実家へ帰ることにした。
 ここがコイキングの出身で正解だったらしく、仲間のコイキングたちと仲良く会話しているかと思えば、急にはねる大会が始まってしまった。コイキング達なりのお見送りなのだろう。
 これがまたみんな驚く程高く跳ねる。これはもう飛んでいるの域ではないのか。
 こんなに多くのコイキングが跳ねるのはトウカシティの住民からしても珍しいらしく、見物客が集まってきている。
 特に私のゲットしたコイキングはその身体の大きさからトウカシティでも有名だったようで、彼女を愛していた釣り人から態々挨拶をされたりもしていた。

「コココッ」
「ん?優勝おめでとう!もういいの?」
「ココ!」

 ススイーと泳ぎ、池に足を付けていた私に近寄ってきたコイキングの眉間を撫でる。ここを触られるのが一番好きなようで、私の手に自ら押し付けてくることもあった。
 誰よりも高く跳んだコイキングはにこにこと笑い、ぴょんぴょんと軽く跳ねた。
 パシャパシャと水が跳ね、私の身体中に掛かってしまう。やったな?と手で水を掬って掛けてやると、嬉しそうに足に擦り寄ってきた。なんだこいつかわいい。

「ぴちゅぴちゅ?」
「ココッ!コッ」
「ぴちゅ!?」

 くいくいとピチューに袖を引っ張られ、そちらを向くとピチューはコイキングを指差し、次に空を飛ぶスバメを指差した。

「こら。だから指差しちゃいけないって」
「ぴちゅー!」
「ええ?えっと、コイキングとスバメ」
「ぴぴー」

 違う!と小さな手で罰印を作るピチュー。意を決して両手を伸ばし、ジャンプして手をばたつかせた。いやかわいいな。

「飛ぶ?」
「ぴちゅ!」

 正解!と長い耳を使って今度は丸印を作る。
 コイキング、スバメ、飛ぶ。スバメは飛んでいる。そこにコイキング?コイキングは跳ねる。跳ねることを跳ぶって言うことはあるけれど、跳ぶと飛ぶは違うし。

「うーん、コイキングがスバメ?」
「ぴちゅ!」

 どうやら正解らしい。
 コイキングとスバメではなく、コイキングがスバメ?コイキングがスバメのようになりたいってこと?それで、スバメは飛ぶ。

「……もしかして、コイキングは空を飛びたいの?」
「ぴちゅー!」
「ココッ!」

 大正解!と突撃してくる二匹を受け止める。
 確かにコイキングは進化してギャラドスになると、みず・ひこうタイプへと変化する。けれど、そらをとぶを覚えられただろうか。
 そもそもの話、この世界でもギャラドスが空を飛んでいるだなんて話は聞いたこともない。
 だが、新無印10話ではドラゴンタイプのハクリューが空を飛んでいた。なら、ひこうタイプを併せ持つギャラドスが空を飛べても、何も可笑しくないのでは?むしろ飛べて当然なのかもしれない。それに可能性や夢を潰してしまうのはナンセンスだ。
 人間が深海へ潜ることも、空を飛ぶことも諦めなかったように。ポケモンだってきっと、諦めなければ何かが起きる。

「うん、うん。結果がどうなるかは分かんないけど、一緒に特訓してみよ!」
「コッー!」
「あ、ちょっと待った!体重掛けられたらさすがに無理!」

 尾びれをばたつかせたコイキングに体制を崩し、上半身が倒れてしまった。シンプルに重い。しかし女の子相手にそんなことは言えない。

「ぴちゅ!?ぴ、ピーチュー!」

 コイキングの身体で見えなくなってしまった私に驚き、ピチューが10まんボルトを放つ。
 コイキングにも私にもこうかはばつぐんだ!
 そして、現実の人間がサトシほど丈夫なわけもなく。とはいえ、ポケモンと共存しているからか、ある程度は耐性があるらしくて。
 痺れた私とコイキングはトウカのジムリーダー自らが口元まで運んでくれたクラボのみでまひ状態が治った。





 コイキングの覚える技は図鑑によれば『はねる』『たいあたり』『じたばた』。この技構成でどうやってこの子の良さをアピールするのかを考えなくてはならない。
 バトル審査なんかは特に鬼門なのではないだろうか。コイキングは自力で相手ポケモンに勝てないため、レベル上げが大変という話はよく聞く。

「ココッーーーーー!」
「スバァ!?」
「す、スバメーーー!?」

 前言撤回する。バトルの方は何の問題もない。
 試しに野生のスバメと戦ってみたのだが、コイキングの勢いの良い『たいあたり』でどこかへ飛んで行ってしまった。当のコイキングは機嫌良く勝利の舞(はねる)を舞っている。どうやら鳥ポケモンに攫われた経験が恨みとなって現れているらしい。
 ピチューはあんぐりとしていたが、理解が追い付いた瞬間にきゃらきゃらと笑い出した。あれ、もしかしてちょっと性格が悪い……?でもそんなピチューもかわいい。
 ちなみに吹っ飛ばされたスバメはフラフラと戻ってきてくれたため、怪我の確認をしてからお詫びのオレンのみを渡した。キッとコイキングを睨んでから飛び去って行ったため、周辺のコイキングとスバメの仲が荒れてしまったら、間違いなく今回のことが切っ掛けだろう。
 あのスバメはトレーナーズスクールに通っていた頃からの友達で、自分たちの巣に案内してくれて学校のレポートの手伝いをしてくれたりだとか、木の実を分けてくれる優しい子だ。だからこそ、今回はちょっとだけ申し訳なかった。
 スバメ。ゲーム中、序盤で出会うことになるひこうタイプのポケモン。となるとやっぱり、サトシはスバメをゲットしている。AG4話。一度別れたタケシの再登場もこの回だ。負けず嫌いのスバメで、ピカチュウのでんき技を喰らっても尚立ち上がるような根性のあるやつだった。オオスバメに進化したのはAG80話のポケリンガという競技の最中。ポケリンガは空中で相手とリングを取り合い、先にゴールに引っ掛けた方が勝ちというゲームで、実はDP118話でも同じ競技で当時のライバルであるシンジと戦っていたりする。ここで面白いのが、DPの鳥ポケモン枠であるムクバードもこの回で進化を果たしたことだろう。公式は狙ってやっている。最高。
 サトシはこの様なアニメオリジナルのポケモン競技に飛び入り参加して優勝をかっ攫うことが多く、それだけ柔軟にポケモンを育てているのだと私は解釈している。バトルの秀才、競技と育成の天才だ。

 うんうんと一人頷いていると、ピチューにぺちりと尻尾で叩かれる。
 104番道路。ハギ老人の自宅隣の桟橋に座り、二匹と相談を重ねる。
 ハギ老人とはたまたまトウカシティのポケモンセンターで出会い、ピーコちゃんとピチューが意気投合。以降、たまにお家にお邪魔して二匹を遊ばせている仲だ。
 AG18話にハギ老人は登場しているのだが、アニメ版では船乗りを引退していたりする。
 ハギ老人は私を孫のように思ってくれているのか、遊びに行く度にお菓子をくれる。今日はピーコちゃんとカイナシティへ遊びに行っているため、留守番という名目でここにいさせてくれていた。

「初めまして!貴方がピチュー使いのコーディネーターさんよね?」
「はい、そうで……キャアアアアアア」
「え!?」

 そんな私たちに話しかけてきたのが、茶髪を二つに分かれさせた、"赤"のイメージが強いトレーナー。何度もアニメで観て、ゲームでは自分で動かしたあの子。

「ほ、ほほほほ、ホウエンの舞姫っ!」
「コーディネーターとしてのあたしのこと、知っててくれたんだ!ちょっと嬉しいかも」

 頬を染めたホウエンの舞姫。即ち、ハルカである。生「〜〜かも!」ありがとうございます!この世界のハルカも言ってくれて嬉しい。
 AGでサトシと旅を共にしたポケモンコーディネーター。この世界では一人のトレーナーとしてチャンピオンに打ち勝ち、殿堂入りまで果たした秀才。コーディネーターとしてはまだまだ成長途中で、次のグランドフェスティバルの優勝候補だ。私は将来的に彼女とも大会で争うことになるが、それはそれとしてファンレターを書いて送ったこともある。
 有名人の彼女がどうしてここに?というか、もしかしなくても認知されている……!?

「そのコイキング!パパとオダマキ博士から聞いているわ!」
「えっと……」
「あっ!ごめんなさい、あたしったら」

 ぽりぽりと頭を搔く仕草さえ、私がアニポケで見たハルカだった。
 いやいかん。これはいかんぞ。目の前にいるのは私がテレビ越しに観ていた、サトシと冒険を共にしたコーディネーターのハルカではないのだから。
 ハルカ曰く、オダマキ博士に用事があってミシロタウンに向かう途中、ついでに父親のジムにも寄って行ったらしい。二つの場所で同じコイキングの話を聞いたため、たまたまそのトレーナーの私を見掛けて話しかけてくれたのだとか。

「元々ね、同じコーディネーターとしてあなたのことは気になってたんだ」
「う、うそぉ……」
「ホント!」

 膝の上に乗ったピチューがジッとハルカを見定めている。元々人に懐きにくい子で、加えて人見知り。プライベートでは慣れない相手に愛想良くすることが出来ないのだ。パフォーマンス中は自分の可愛さをしっかりアピール出来るのに。
 コイキングは興味深げにハルカの近くでぷかぷかと浮いている。そんなコイキングに私の許可を得てから手を伸ばし、撫でてくれるハルカ。

「あなたのピチュー、すごく毛艶が良くて、何より自分の可愛さもその魅せ方も、ピチュー自身がよく分かってる。可愛さだけなら、ルチアのチルタリスにも負けてない」

 褒められ、えっへんと胸を張るピチュー。気付けばカメラを取り出し、写真を撮ってしまっていた。
 私はピチューと出会ってから、一日十回以上はかわいいと伝えてきた。事実ではあるのだが、そのせいかピチューは自分が可愛いのだと理解し、どんな仕草をすれば私のツボをつけるのかを把握し、たまにあざとく可愛こぶってくる。いや、実際かわいいのだけれど。ピチューはかわいいんだよ!

「コイキングは髭がすごく逞しいわ!私の知っているコイキングたちと比べても、身体の筋肉がしっかり付いている。コイキングってその、ね。ポケモンの中でもあれって言われることが多いこともあって、本当に一日休んだだけで筋肉が落ちやすいのよ。でもこの子はそんなことはない」

 それだけあなたがちゃんと見てあげてるってことよね!
 そう言ってくすくす笑い、先に立ち上がったハルカは私に手を差し出す。

「ライバルだけど、コーディネーターの仲間だもの!次の大会はどうするの?」
「ミナモ大会に出ようかなって考えていて」
「うん。なら、それまで一緒に特訓しましょ!」
「え!?」
「殿堂入りトレーナーとしての仕事もあるから、ずっとは一緒にいられないんだけどね」

 ここで出会えたのも何かの縁だから。
 ハルカの投げたボールからカメールとアゲハント、そして彼女のエースであるバシャーモが繰り出される。
 一目見ただけで分かるほどに育て上げられた、屈強なポケモン。けれど動きはしなやかで、ただ強いだけではなく優雅さも兼ね備えている。多くのポケモンは彼女のポケモンの前で息を飲む。それは恐ろしいほどに美しいからだ。
 私のコイキングも例外ではなかった。よく動き回るあの子は今は動かず、海にカメールが飛び込んで来るまで微動だにせず。
 対してピチューは負けず嫌いが発動したのか距離を縮め、最大限の可愛さをアピールしながら挨拶をしていた。こういう所が逞しく、頼りになる子だ。

「あたしが訓練を付けてあげる!」

 なんて贅沢な。でも、こんな機会を逃すわけにはいかない。

「よろしくお願いします!」
TOPBACH