改めて、ポケモンコンテストについて説明しよう。
 ポケモンコンテストとは相手が戦闘不能になるまで戦う純粋なバトルとは違い、ポケモンの個性や魅力で戦う大会だ。
 大会毎に審査方法は異なるが、ミナモ大会は一次のアピール審査、二次の技アピールというゲームに近い形式で行われる。ゲームと違うのは一次と二次で使用するポケモンを変えられること。そして、連続で同じ技を使用することが出来ることだろうか。
 そもそもの話、かっこよさやうつくしさ等の部門別の大会は存在しておらず、どんな形でも一番魅力的なポケモンが優勝となる。
 ランク別に勝者が決まり、どのランクのリボンでも合計で五つ集めることが出来れば、夢のグランドフェスティバルへの出場が可能となる。ただし、この内の一つはマスタークラスのリボンであることが定められており、この条件を越えられない人が数多い。
 リボンには有効期限があり、ゲットした年から四年間はグランドフェスティバルへのチケットの一つとして扱える。また一度チケットとして使用したリボンは次回以降のグランドフェスティバル参戦には使えず、また一からリボンを集めることになるのだ。
 ホウエン、シンオウではそれぞれ月に一度大会が開催されており、他地方は不定期。アニメと違い、どの地方のリボンでも五つ集めればグランドフェスティバルへの出場が可能だ。
 私は現在スーパークラス。ノーマルクラス時にリボンを二つゲットしており、これがかなりの快進撃であると話題になっていた。そのためすぐにスーパークラスへと上がったのだが、以降の結果は悩ましい。どれも準優勝で終わっていることもあり、一度でも優勝出来れば、ハイパークラスへ昇格が出来ると通達は来ているのだが、やはり難しい。
 そんな中、私とピチューは新たな仲間であるコイキングと出会い、しかも運の良い事にハルカに特訓をつけてもらえることになったのだ。

「あなたの思うコイキングの魅力って何かしら?」
「それは……え、語っても良いんですか?」
「?ええ」

 許可も貰えたことだし、と口が乾いてしまうことを前提に水筒に入れてある水を飲み、んんっと喉を整えてから息を吸った。

「まずはその負けん気の強さですね。普段はおっとりしているのですが、一度敵対した相手には勝つまで食らいつきます。そしてこの、ミロカロスにも負けない美しさ!一番はたくましさが見えますが、鱗も綺麗で、何よりこの泳ぎ方!この子が泳いでも周囲に水が跳ねない。優雅な泳ぎ方という点では誰にも負けません!これは出会った当初からそうなので、この子の育ちの良さか、元々そういう泳ぐ才能を持って生まれたのかは分かりません。分かりませんが、美しく自分を魅せるには筋力が必要です。ダンスやスケートもそうですよね?この子の筋力は彼女の努力によって身に付けられたものです」

 美しく泳ぐためというより、高く跳ぶために身に付けた筋肉だろうけれど、それが一つの彼女の魅力になっている。
 しゃがんで、コイキングの目と目の間を撫でる。にこーっと笑った顔はどのポケモンも、どんな人間も可愛らしいものだ。
 私以上に表情が豊かなコイキングとピチュー。間違いなくこれもこの子たちの強みの一つ。

「私はコイキングもピチューも大好きです。長々と語ってしまいましたが、その大好き!って気持ちを人に思わせることが出来るのが、この子たち最大の魅力だと思っています」

 立ち上がると、ピチューが肩に上ってきて、すりすりと電気袋を私の頬に擦り付ける。ピリピリと電気が流れるが、ピチューも大きく成長しており、電流の制御がほぼ出来ている。
 この体内の電気の制御が出来るようになると、ピカチュウに進化出来るようになるのだとか。この世界の学説的には野生のピチューにそういう傾向が見られるらしい。これが野生ではなく人と共に暮らすピチューだと話が変わってきて、電気の制御が可能でも進化が出来ない子がいるのだとか。逆もまた然り。
 それがほぼ間違いなく、愛情の問題だろうと思うのは私が新無印1話を知っているからだろう。月夜にガルーラ親子にさようならを告げたピチューはピカチュウに進化した。そこに存在していたのは相手を思いやる心。即ち愛。ゲームではなつき進化というのだったか。この世界になつき進化なんて概念は誰の中からも生まれていないが。
 勿論、そのポケモン自身が進化を望んでいるかいないかも関係あるのだろう。

「……素敵ね!なら、その魅力を最大限に引き出せるコーディネーターにならなくっちゃ勿体ないわ!」
「え……」
「あたし、あなたのパフォーマンスを何回も見たの。間違いなくあなたのパフォーマンスはお客さんから見て楽しめるものだわ!あのパフォーマンスのままでも十分お金を稼げる。でもそれはパフォーマーであるなら。私たちはポケモンコーディネーターなの」

 ――なのにあなたたちの演技は技にばかり目が行ってしまう。
 そう言われ、ハッとした。私は技を大きく見せることばかり気にしていたのだ。
 会場は大きく、小さな演技では目立たない。特にピチューは体が小さい時点でディスアドバンテージ。だから、技を使って広く演出をしなくてはと考えていた。けれどそれが、ポケモンコーディネーターとして裏目に出てしまっていたのだ。
 技ばかりに目が行って、ポケモンに目が向かない。

「主役は、ポケモン」

 ハルカは私の肩を抱き、元気が出るようにと何度か叩いた。
 ピチューとコイキングがハルカのポケモンたちに指導を受け、動き回っている。





 主役はポケモン。
 DPのサトシの仲間であるヒカリが好敵手のノゾミに言われ、自身でも何度も口にした言葉。

「技ばかり磨き上げて本当に見せなきゃいけないこと、アンタ忘れてるよ!」

 キツい言葉ではあったが、正論だった。ヒカリはこの言葉に長い間頭を抱えてしまったが、同時に成長する切っ掛けにもなっている。
 主役はポケモン。私はそれを知っていたはずなのに、結局は技ばかりを気にしてしまっていた。
 技を大きく見せるんじゃない、ポケモンを大きく魅せるのだ。
 心機一転。コンテスト衣装に身を包む。
 大きな立ち回りをしても大丈夫なようにエメラルドグリーンのワイドパンツに合わせたセットアップを。シャツの袖はふわりとレースになっており、どれもシンプルなデザインだ。物足りないのでタイプアイコンのチャームを用意し、ネックレスに大会毎に付け変えるようにした。あまり高くないヒールのストラップ・パンプスは靴擦れをしにくいと評判のブランドで、両親がセットアップに合わせて購入してくれたもの。
 今日のネックレスのチャームはみずとでんきだ。

「いこう!コイキング!」

 任意で使用可能な水槽の設置をお願いし、一次のアピール審査を行う。
 ボールカプセルにより、ファイアシールの効果と共に現れたコイキングがくるりと回転して炎を消し、水中を泳ぎ始める。
 この尾の力強いアピールはハルカのカメールから学んだものだ。

「コイキング!はねる!」

 強弱をつけて跳ねるコイキングは空中で舞う。ウインクをし、回り、水飛沫を立てないように水中へと落下。
 言うなれば、スケートと飛込競技の合わせ技だ。
 オリンピック競技にもなり、視聴者を熱狂させるそれが盛り上がらないわけがない。

「フィニッシュ!水面に向かってじたばた!」

 最後は観客が飽きないタイミングで。態と水飛沫を大きく立て、陸の上に上がってコイキングは笑った。
 筋力もあれば体感も良いこの子は陸の上で身体を横に倒さず、真っ直ぐに前を向いて立つことが出来る。普通のコイキングには出来ないことだ。
 それだけでコイキングに目が奪われ、落ちてきた水滴はすぐに乾いてしまうコイキングの体を潤わせた。
 アピール審査と技アピール審査。態々名前を変えているのだから、そこに意味が無いはずがない。私はすっかり周りの人に流されて、アピール審査ですら技のアピールをしてしまっていた。
 でも、今日からは違う。
 どちらに於いても、あくまで主役はポケモン。かわいい私の仲間達のアピールだなんて、得意中の得意!
 歓声の中、コイキングが初めての舞台に大きく笑った。





 技アピールはピチューと一緒に行う。
 二次審査に進めた十六人が四人ずつのブロックに分かれて審査を受け、それぞれのブロックで一番の評価を受けた合計四人で最終決戦。
 技のアピールの順番は毎回ランダムに決められ、四巡行われる。
 ピチューは当たり前のようにブロック戦では一番人気をかっ攫い、ファイナルアピール。
 一巡目。私の頭の上からジャンプし、でんきショック。ぱちぱちと弾け輝くそれはピチューには何かモチーフがあるらしい。モチーフ元に近い輝きを求め、ピチューはよくバシャーモと特訓していた。
 二巡目。ピチューはスタジアムの手摺に飛び乗り、ぐるっと一周をする。その間に使用した技はメロメロ。黄色い悲鳴が上がり、客席にいたポケモンたちが立ち上がった。
 三巡目。既に会場の空気はピチュー一色。尚も飽きさせず、もう一度でんきショック。今度は強い輝きを。10まんボルトに近い威力のそれはピチューが可愛いだけのポケモンじゃないことを魅せつけた。
 四巡目。最後のアピール。今まではピチューの体が持たず、使うことが出来なかった技。その技もハルカのバシャーモが付きっきりで特訓をしてくれたこともあり、やっとのことで使用後も笑って立っていることが出来るようになった。それでも反動は大きいが、ピチューがやる気なのだ。トレーナーの私がそのやる気に応えないでどうする。

「ピチュー!ボルテッカー!」

 黄色い電光が走る。光の中が一番、でんきタイプが輝く場所なのだ。





 ハルカのカメールの演技を知っているだろうか。あれはミクリカップの予選。パフォーマンス審査のこと。ハルカがサトシと冒険していた頃、カメールはまだゼニガメであり、進化をしてから再会したのだ。因みにイーブイはサトシたちとの再会前にキッサキシティの方まで行き、グレイシアに進化させている。
 アニメのハルカのカメールの演技は甲羅と尻尾を使った力強くも靱やかなもので、この世界のハルカも同じであった。故に今回のコイキングの演技はハルカのカメールに指導を受けたこともあり、リスペクトさせてもらっている。
 詳しくはDP77話をチェック!

 実はサトシのピカチュウがボルテッカーを使えた時代があったことをご存知だろうか。
 覚えたのはAG150話。ざっと説明してしまうと、盗まれた育て屋さんのポケモンの卵を取り返し、ロケット団を何時も通り吹っ飛ばすために"でんこうせっか"の指示を受けたピカチュウが駆けたところ、その身に電気を纏ったのである。
 このボルテッカー枠はBWからはエレキボールへと代わり、SMではエレキネットへ代わっている。サトシのバトルの強みの一つはポケモンたちの速さなので、ゲーム中では相手の素早さを下げることの出来るエレキネットは相性が良い。エレキボールを覚えたのはBW20話、エレキネットを覚えたのはSM76話。サトシとピカチュウのひっさつのピカチュートはちょっと見てみたかったが、まあ無理な話である。
 さて、その素早さに目を付けて対策をされた戦いがDP185話だ。出会いはDP50話であり、DP88話〜91話まで続いたポケモンサマースクール回でヒカリに片思いをしたトレーナー、コウヘイとのポケモンリーグ戦だ。元々DPのポケモンリーグはサトシが別の地方でゲットしたポケモンを使用したこともあり人気を博しているのだが、コウヘイ戦はアニポケでまさかのトリックルームを使われたのである。ゲームを彷彿とさせるコアな戦いはコウヘイとのバトルが初めてだったのではないだろうか。
 コウヘイ戦にはヨルノズク、ドンファン、フカマルが選出されている。因みにサトシのヨルノズクは色違いなのだが、サトシのせいで通常色のヨルノズクが色違いに見えてしまうのはアニポケあるある。そしてサトシのヨルノズクは通常よりサイズが小さく、アニメでも言及されていたりする。
 彼らのゲット回はヨルノズクが無印156話、フカマルがDP156話。ドンファンはたまごから生まれたポケモンで、無印230話のポケモンライドにベイリーフと参加して優勝。その優勝賞品としてゴマゾウのたまごを貰っている。孵ったのが232話だ。一度オーキド研究所に預けられたもののAG133話で手持ちに復帰し、進化をAG154話で果たしている。

 人間とポケモンの間でしか生まれない力も存在するが、ポケモン同士の間でしか生まれない力もある。
 ハルカのポケモンたちはピチューとコイキングに仲間のポケモンと切磋琢磨することを教えてくれた。
 種族もタイプも違う。けれど、お互いを高め合うことは出来るのだと。
 先輩から直々に学ぶことの出来た二匹は大きく成長し、三つ目のコンテストリボンを手にするに至ったのだ。

「ほんとうに、本当にありがとう!ピチュー!コイキング!」

 思わず二匹に抱きついたところは記者に写真を撮られ、ネットニュースにも取り上げられている。
 しかし、そのニュースもハルカとそのポケモンたちが大部分を占めていた。
 それはハルカがホウエン地方のチャンピオンであることは勿論、マスターランクの勝者であり、同時に――。

「ハルカさん!優勝、それに五つ目のリボンおめでとうございます!」
「ありがとう!あなたもスーパーランク優勝おめでとう!これでハイパーランクに昇格ね」

 ポケモンセンターで合流したハルカはバシャーモと共に素敵な笑顔を浮かべていた。
 ハルカと手を取り合い、喜びからぴょんぴょん跳ねながら感動を分かち合う。
 ハルカは五つ目のリボンをゲットする大事な局面でありながら、私たちに声を掛けて特訓をしてくれた。感謝してもしきれない。
 ピチューはバシャーモの掌に乗り、目線を合わせて何かを話し合っていた。

「グランドフェスティバルで待っているから、早くここまで駆け上がってきて!」

 グランドフェスティバル。そこまで辿りつければ、私はハルカのライバルになれる。
 夢のまた夢だったはずの大舞台が突然近くに感じられるようになってしまったのは何故だろう。
 高鳴る鼓動の中、勿論だと大きく頷いた。
TOPBACH