空を飛ぶギャラドスについて。
 コイキングの頃から空を飛ぶことを夢見ていた私のギャラドスは特訓を重ねていた。そんな彼女を否定しなかったのは昔の人間が空を飛ぶことを諦めなかったように、彼女も諦める必要はないと考えたからだ。
 そんな彼女はある日突然ボールから飛び出し、そのまま宙に浮いた。そのまま低い位置で飛び続け、その後進化を経て更に上空へと飛び上がる。
 しかしそんな彼女も鳥ポケモンから見れば、まだまだ拙い飛び方だったらしい。ここからはそんな彼女がどのようにして危なげなく飛べるようになったのかについても記載しようと思う。
 ギャラドスが飛べるようになったとチャンピオン兼コーディネーターのハルカさんに連絡をしたところ、ポケモンの研究者へ話が回り、便宜を図ってもらえることになった。そうして私は二人のジムリーダーとアポイントを取らせて頂いた。
 一人はひこうタイプのジムリーダーであるナギさん。もう一人はゴーストタイプのジムリーダーであるマツバさんである。
 二人からのアドバイスや手持ちのポケモンたちの力添えで、ギャラドスは高く飛ぶ方法や飛行中に力を抜く方法を学ぶことが出来た。しかし、やはり他のひこうタイプやゴーストタイプとは明らかに飛び方が違う。そうして資料を漁っていたところ、私は似たような飛び方をしているであろうポケモンの存在に気が付いた。
 ホウエン地方に伝わる伝説のポケモン、レックウザである。
 本物を見たことはないが、資料に寄れば間違いなく近い存在であろう。タイプにもひこうが含まれているようで、体の形も近い。
 今のところ、何が分かったわけではない。けれど、レックウザの存在はギャラドスというポケモンが空を飛ぶことに関して、何ら可笑しなことではないと証明をしてくれるのではないだろうかと期待している。
 縁を感じるため、今の私の実力では足りないだろうが、いつか彼のポケモンが現れたという『そらのはしら』へ赴いてみたいと思う。

 カタカタとレポートを書くために購入したノートパソコンで文字を打ち、ファイルを博士へと転送した。
 私がこうしている間にもギャラドスとオオスバメは空を舞い、喧嘩をしながらもその力強さに磨きをかけていた。
 パソコンの電源を落とし、パタンと閉じる。朝早くで居眠りをしてしまったピチューの頭を撫で、反対の手を高く上げる。
 それに気が付いた空を飛ぶ二匹は下降し、彼女たちの頬を撫でた。
 今日は早くもコンテスト当日。やることが多くて忙しかったが、それが実力を発揮出来ない理由にはならない。特にギャラドスにかかりきりだった部分もあり、ピチューとオオスバメには申し訳ないことをしてしまったとも思っている。謝罪をすると、彼らはちっとも気にしていないと笑ってくれた。むしろ、ギャラドスが急に飛べなくなってしまって上空から落下するような事故があったら、そっちの方が問題があると。

「空を制してコンテストも制す。頑張ろうね!」

 声、高らかに。





 控え室。沢山のコーディネーターが全員集まれる程の広さがあり、ハイパーランクともなればテレビで何度も見覚えのある人達ばかりだ。
 私はこの人達の中に交じりながら、手持ちたちの魅力を存分に引き出し、他のどのポケモンよりも輝かせる。
 ギャラドスとオオスバメのボールにカプセルを嵌め、ギャラドスにはスモークシール、オオスバメにはスカイシールを貼り付ける。貼る位置は事前に決めていたため、問題はない。緊張を紛らわせるために本番ギリギリに自分が行うことを増やし、気を紛らわせていた。

「舞台袖までお願いします!」

 スタッフに声を掛けられ、ピチューの応援を胸に彼をボールに戻す。
 今回のコンテストはアニメのように一次審査でポケモンのアピールを、二次審査でコンテストバトルが行われる。これは今年のグランドフェスティバルと同じ形式だ。だからこそ、ピチューにも経験を培わすことも考えたのだが、当の本人……本ポケ?が辞退したのだ。
 何か覚悟を決めたピチューの瞳は真っ直ぐで眩しい。
 前の順番のダブルパフォーマンスが終わり、コーディネーターが私の横を通り過ぎる。軽く頭を下げ、司会に自分の名前が呼ばれたことを確認してから、ステージに立つ。
 大丈夫。サトシと冒険を共にしたヒカリの大丈夫は大体信用ならないけれど、きっと私の大丈夫は本当に大丈夫、なはず。

「出てきて!」

 オオスバメのボールはフリスビーを投げるように。ギャラドスのボールは空に向かって高く。
 ボールが開かれ、シールのエフェクトと共に登場するが、ギャラドスの姿はスモークで隠されている。その間、オオスバメはグルリとステージを一周。
 私たちがコンテストに於いて重きに置いていることは『ポケモンたちを近くに感じる』こと。遠くでパフォーマンスをしているのではない。近くで、その存在を感じてほしい。だから観客の近くまで動き回り、技も大きく見せる。勿論、主役はポケモンだ。

「オオスバメ!きりばらい!」

 状況を見計らい、スモークを吹き飛ばすように命じる。オオスバメはスモークを上空へ飛ばすようにギャラドスよりも低い位置から『きりばらい』を使用した。
 この『きりばらい』、シンオウ地方からお取り寄せしたものである。今回のこの演出のために高いお金を……と、そういう話は止めておこう。
 スモークが消えた先に現れるのは空を飛ぶギャラドス。会場中が息を飲む。これはギャラドスのとくせいである『いかく』の効果もあるのだろう。
 完全にスモークが払われてはいない中、ギャラドスはその大きな身体を動かす。その横にはオオスバメが飛んでいた。
 宛ら雲の上を往く龍とその眷属。なんて言ったら、オオスバメは怒ってしまうのだろうけれど。

「ギャラドスはりゅうのまい、オオスバメはかげぶんしん!」

 彼女達の優美なる姿をもっと見てほしいけれど、そろそろ時間だ。
 隣同士で飛んでいた二匹の距離が離れ、向き合う形になる。

「フィニッシュいくよ!ギャラドス、アクアテール!オオスバメ、つばさでうつ!」

 体同士はぶつかりそうでぶつからず、オオスバメの翼がアクアテールの水を割き、水しぶきがキラキラと輝いて降り注いだ。
 二匹は降下し、ギャラドスは大きく吠え、オオスバメは紳士のように礼をする。二匹とも女の子だが、かわいいに対する優先順位は低い。この子たちはかわいいよりかっこいいを目指しているのだ。
 湧き上がる歓声と拍手。初めてのステージに目を輝かせたオオスバメはこちらを振り向き、どうだった!?と尋ねてきているようだ。
 勿論、私の仲間たちは最高に素晴らしかったとも!





 一次審査を安定して無事に突破した私たちは二次審査のコンテストバトルへ移る。
 二次審査も順調に勝ち進めた。
 普通のバトルであれば実力差で負けていただろうが、コンテストは強いだけではいけない。魅せるバトルをしなければならないことが、私のポケモンたちにとっては有難いことにやり易いものだったのだ。
 一つ一つの技の威力はまだまだだけれど、相手の技を利用して自分を魅せるのは大得意。オオスバメが大空を舞い、ギャラドスはそれに続いた。
 そして訪れる時間制限五分の決勝戦。スカイシールの効果と共に登場した二匹はノリに乗っていた。
 コンテスト会場の広さの感覚を把握し、自由に空を翔る。
 しかし相手のポケモンはランターンとマンタイン。タイプ相性で言えば、ランターンは警戒するしかない。しかも手持ちのポケモンをより良く見せるため、しっかりと水のフィールドの使用を事前に申し込まれていた。
 水のフィールド。今回のこれに関してはどういう仕組みかフィールドに水が張られ、幾つかの丸い足場が浮いている。
 サトシがポケモンリーグのセキエイ大会で一回戦に臨んだ際や、ミクリカップに出場した際の最後のバトルを想像してもらえれば早いだろうか。
 尚、セキエイ大会一回戦は無印77話。ミクリカップはDP78話のこと。セキエイ大会自体は無印76話〜82話、ミクリカップはDP77話〜79話となっている。ミクリカップに関してはその前日譚とも言えるDP75話〜76話も一緒に観ることをオススメしたい。特にDP76話はハルカと再会した瞬間も描かれている。
 サトシがコンテストで苦戦を強いられたのもランターンだったな、と思い出す。ブイゼルの氷のアクアジェットは中々良い手段だが、残念ながらギャラドスはアクアジェットを覚えていない。断念しよう。ならば、セキエイ大会はどうだっただろうか。
 セキエイ大会一回戦ではサトシのクラブの初陣であり、大金星を飾っている。バトル中に進化したクラブ、基キングラーの底力を見せる戦い。参考にするのは難しそうだ。

「スバァッ?」
「うん?あ……」

 私、いつの間にかニヤけていた。
 サトシの記憶を思い出していると、どうも気分が上がってしまう。緊張が解れて良い感じだが、余所見している暇はない。
 バトルスタートの合図が出される。

「ランターン、ほうでん!マンタインはワイドガード!」
「オオスバメはかげぶんしん!ギャラドスは勢い良くりゅうのまい!」

 オオスバメが『かげぶんしん』でランターンを錯乱し、ギャラドスは『りゅうのまい』の回転を利用して『ほうでん』を身に纏う。
 新無印65話のアイリス戦でサトシのカイリューが『ぼうふう』で『りゅうのいかり』のドラゴンエネルギーを奪い取る戦法を使ったが、そのイメージだ。

「そのまま突っ込んでかみくだく!」

 どちらにとは言わずとも、ギャラドスはマンタインを狙いに行った。纏った『ほうでん』はマンタインには効果は抜群。加えて、相手の技を利用した演技で相手ポイントが減る。
 このアニメ版コンテストと同じくしたポイント制度は減点式であり、自身の失敗や相手のアピールの良さで減らされていく。
 ポケモンが倒されればバトルオフ、ポイントが零になるとポイントアウトで敗北。五分経過後にどちらともなっていなければ、残りポイントの多い方が勝者となる。

「マンタイン、うずしお!ランターンはうずしおに入れ!」

 宙に浮かぶ『うずしお』にランターンが飛び込んだ。『うずしお』の中で身を潜めさせ、でんき技で割って出てくるつもりなのだろう。
 ギャラドスの『アクアテール』で『うずしお』を破壊する手もあるが、恐らくでんき技を使われて大きなダメージを受ける。先程の『りゅうのまい』時だって、軽減は出来ていてもダメージはそれなりに入っているのだ。バトルアウトになる危険性がある。
 そうこう考えているうちにギャラドスに向かって『うずしお』が迫る。
 オオスバメに突撃させるのは無しだろう。ああ、タイプ相性が厄介だ!
 いや待て、そもそも一体で対処する必要は無いし、技を撃たせないという選択肢だってあるのではないだろうか。
 閃く。

「オオスバメ!ギャラドスとうずしおを挟み込んで!」
「させるな!マンタイン、みずのはどう!」
「速度を落とさないでかげぶんしん!」

 オオスバメの素早さに賭け、ギャラドスと『うずしお』がぶつかり合う前に挟み撃ちに出来るように指示。それを邪魔する『みずのはどう』は『かげぶんしん』で切り抜ける。
 ランターンの姿を見えるようにすることが目的であり、攻撃後の落下時にオオスバメが即座に対応出来るようにすることが目的だ。また、ある程度ダメージを軽減させ、ギャラドスがひんしにならないことを祈る。経験が足りず、その程度しか思いつけなかった。
 タイミングを見計らい、再度指示を出す。

「りゅうのいかり!」
「っ……!ランターン、脱出だ!」
「逃がすな!つばさでうつ!」
「うずしおでランターンを援護!」
「させない!ギャラドス、そのまま方向転換してうずしおを破壊!」

 運が良いのか、そのままランターンが攻撃してくることはなかった。
 『りゅうのいかり』で『うずしお』を破壊。そのまま突撃することなく逃げることを選択したランターンに向かって、オオスバメに『つばさでうつ』を指示した。その邪魔をしようとする『うずしお』は『りゅうのいかり』を発動中のギャラドスに対応させる。
 水のフィールドに落ちる前に『つばさでうつ』でランターンを上空に飛ばし、ギャラドスの元へ。後はそのまま目の前までやって来たランターンを倒すだけ。

「アクアテール!」

 ギャラドスの尾に打撃を与えられたランターンがフィールドに落ち、大きく水飛沫を上げる。

「ランターン!?」
「オオスバメ、ゴッドバード!ギャラドスはフィールドに向かってアクアテール!」

 再度上がる水飛沫。これは目眩しだ。ゴッドバードには溜めが必要で、使い時が難しい。けれどランターンに目が奪われている今ならば、これだけ時間を稼げればいける。
 オオスバメが動き出す。その翼で水飛沫を捌きながらマンタインに突撃した。





 リボンケースに仕舞われた四つのリボンを見て、喜びと同時に不安が湧き上がる。
 上手く行きすぎている気がして、またどこかで大きな挫折を経験しそうだ。
 ポケモンセンターのベッドで大の字になり、お風呂上がりのポカポカとした身体で揺蕩う。ボールの中ではギャラドスとオオスバメが既に爆睡していた。
 バトルをしながらのパフォーマンスは難しく、反省点は沢山あった。けれど、優勝出来たことには変わりない。あの瞬間、ステージ中の視線を集めたのは私たちだったのだから。
 リボンが四つ集まると強制的に次のランク、つまり私たちの場合はハイパークラスからマスタークラスへと上がる。ここまでトントン拍子に進んでいて、本当に良いものかと自信が追いついてくれない。

「ぴちゅ」
「ピチュー?どうしたの?」

 どうやらずっと起きていたらしいピチューが私のポケナビを持ってやって来た。
 起き上がり、受け取ったポケナビを起動すると、ピチューが操作を始めた。賢い。
 開かれたのはガラル地方のマップで、更に画像をアップしてとある場所をピチューは指差す。

「そこに行きたいの?」
「ぴーちゅ!」
「ガラルはちょっと遠いから、お母さんたちに相談してからね」

 カントー、ジョウト、ホウエン、シンオウはわりと近い位置にあるが、他の地方は距離があって成人を迎えるまでは一人では行きづらい。前世風に考えるなら、子どもが一人で日本から海外へ向かうようなものなのだ。
 大好きな仲間のお願いはなるべく叶えてあげたいけれど、この歳はまだ親の庇護下でもあるので。
 ポケナビをベッドの脇に置き、ピチューと少し大きめの枕で一緒に眠る。
 ギャラドスとオオスバメとも一緒に寝たいから、ホウエンに帰ったら野宿をしようと計画を立てているうちに、いつの間にか眠りについていた。
TOPBACH