肆拾壱

数日続いた雨。先日購入した傘はさす度に花開き、今ではすっかりお気に入りです。





穏やかな昼下がり。ふいに紡がれた聞き覚えのある声に顔をあげた。

「あら、銀さん?」
「あ?あー、お妙か。」

食器を洗う手を止めて手拭いで手を拭く。座る様子は無いけれど、お客さんならお茶の用意もしなくちゃだし。取り敢えず様子を伺いつつ洗った食器を布巾で拭く。

「なんですその言い様は。何か問題でもあるんですか?」
「別に何にもねぇよ。」
「そうだ丁度良かった。銀さんにお願いがあったんです。」
「お願いぃ?」
「今晩ウチの店人手が足りなくて。ヘルプで入ってもらえませんか?」

にっこりと笑みを浮かべるお妙さん。それにヒクリと引きつった笑みを浮かべる銀さん。
うん、会話は全く聞こえないけどね。何話してるんだろう。

「お前何普通に言ってんの?俺男なんですけど。」
「将ちゃんの時はやってくださったじゃありませんか。大丈夫、可愛かったですよ。」
「女の可愛いなんてあてになんねぇんだよ!」

ん、銀さんの叫び声は聞こえた。前後の会話が分かんないから理解は出来ないけどね。

「もう男の銀さんに頼むくらい人手が足りてないんです。今晩は常連の方が部下を連れて来てくださるらしくて。凄くお酒を呑むカモ…かたなので少しでも人手があったほうが盛り上がりますし。」
「おーいカモって聞こえたよ今ァァ!」

カモ?
そろそろ銀さんのお茶が無くなるハズだ。注ぎに行くついでに、お妙さんのお茶も持って行こう。

「どうぞ。」
「あーサンキュ。」
「ありがとうございます。」
「ユキ団子追加で頼むわ。」
「あ、はい。あんこですね。」
「おー。」
「すぐお持ちしますね。」

あんこあんこ、と頭の中で唱えながら厨房へと小走りに戻った私は、この後の会話を知らない。

「…」
「なんだよその目。」
「いえ、あのお茶を注ぎ足すタイミングとか気遣い、キャバ嬢に向いてるんじゃないかと思って。」
「はあ?」
「銀さんのお知り合いみたいだし良かったです。」
「え?いや…え?」
「見ず知らずの私より、お知り合いの銀さんから話を持ち掛けたほうが良いじゃないですか。」
「え、いやだから…」
「あらやだもうこんな時間!私これから行くところがあるので、銀さん誘っておいて下さいね!」
「ハ…ハアァァァ!?ちょ、待て!おいィィィ!!」



「お待たせしましたー。」
「……あのよぉ…」
「?はい。」
「今夜ヒマ?」

だから唐突に言われて首を傾げてしまうのは仕方のない事だと思う。