ジャーファルの場合


そわそわ。そわそわ。
ジャーファルはいつも通り机に向かって仕事をしているものの、落ち着かない時間を過ごしていた。進まない書類に溜め息を吐いてペンを置く。窓の外に視線を移すと自身の心とは裏腹に嫌になるくらいの快晴。

理由は数分前に遡る。

ジャーファルが机に向かって黙々と書類を片付けていると、珍しい事にシンドバッドが訪れた。仕事はどうしたんだ、とかワザワザ自身の所に来るなんて一体どんな急用が、とかサボって逃げたにしても自分から私に会いに来るなんて雨でも、イヤ雪でも降るんじゃないか、とか色々頭の中に浮かべるものの出てきた言葉はやはりこの一言だった。

「仕事はどうしたんですか?」
「お前…、俺の顔を見る度に仕事仕事と。他に言うことはないのか。」
「なら仕事仕事と言わせないように日頃からやっておいて下さい。そうすれば私は何も言いませんよ。」
「そんな事よりもだなぁジャーファル!」

またこの人は…と半目で睨みつつ先を促す。すると先程とはうって変わってニヤニヤとし始めた。なんだこの人。

「今日がなんの日か知っているか?」
「は?今日ですか?えーと…あの書類は明日までですし…」
「あのなぁ、話の流れ的にまた仕事に戻す訳無いだろう?」
「はは、冗談ですよ。さて…あ、まさか。」
「お?お!?」
「またアンタの酒癖のせいでどこぞの女性に訴えられたとかいう話じゃないでしょうね!?」
「なんでそうなる!?そうじゃない、もっと良いことだ。」
「良いこと?」
「ふ、流石のお前でも分からんか。ふふんコレだ!」

ジャーンいいだろう!と出されたのは可愛らしくラッピングされた袋。恐らく、というか確実に女性からのプレゼントなのだろうが、今日はシンの誕生日という訳ではないし。よく分からないが嬉しそうなので首を傾げつつ数度頷く。

「良かったですね?」
「そうじゃない!そうじゃないんだジャーファル!」
「はあ?」
「コレはな、ユキから貰ったんだ。」
「…へえ。良かったですね。」
「そ、そう怖い顔するなよ。」
「別にいつも通りですが?」

ふふ、と笑みを深めるとシンは冷や汗をたらす。しかしこれではいつまで経っても話が進まないので溜め息を一つ。

「で?」
「あ、あぁ。なんでも今日はバレンタインなんだそうだ。」
「バレンタインってあの東方の国の行事ですか?」
「あぁそうだ。多少の違いはあるかもしれんが、ユキの故郷の行事なんだそうだ。」
「へえ、ではユキは彼方の方の国出身というですね?」
「そんな事はどうでもいい!」
「はあ?」
「バレンタインとは、好きな人にチョコを贈る日だそうだ!」
「…へぇ?」
「(こわっ!)ふ、ふふん!いいだろうジャーファル!」
「良かったですね?」
「(刺激し過ぎたかな…)まぁ心配するな。皆に配っているみたいだからな。」
「へぇ…」


時間は戻り、窓から視線を書類に移すと扉をノックする音が聞こえた。慌てて立ち上がって返事をすると、扉が開きユキがひょっこりと顔を出した。
そのまま中へと促すと彼女はすぐ近くまで来て可愛らしくラッピングされた袋を差し出した。

「ジャーファルくんハッピーバレンタイーン!」
「あ…ありがとうございます。」

これがシンが言っててやつか…。好きな人に配るというソレは無事(?)私の元にも来たわけで。

「今日2月14日はぁ、バレンタインっていってお世話になっている人とか、親しい人とかにチョコレートをあげる日なんですよぉ。」
「、はい。知っていました。というか先程シンが…」
「そういえばマスルールくんもシンドバッドさんに聞いたって言ってましたねぇ。」
「シンも余程嬉しかったんでしょうね。」
「そうでしょうかぁ?」
「ふふ、そうですよ。」
「じゃあ、ジャーファルくんも喜んでくれていますかぁ?」
「!」

コテンと首を傾げて見上げてくるユキに一瞬言葉に詰まる。だって、それは嬉しいに決まってる。シンがユキからプレゼントを貰ったと自慢してきた時はイライラしたし、話を聞いてからは仕事が手につかないくらいそわそわして。
楽しみにしていたこの気持ちが少しでも伝わるよう。

「勿論ですよ。」
「へへ、なら良かったですぅ。」

精一杯の感謝を込めて。

「ありがとうございますユキ。」



戻る/top