高杉さんの場合

今日は2月14日。
好きな人にチョコを渡す日であるバレンタインデー。そんな日に高杉さんにお願いして我が家に来て貰った理由は日頃の感謝の気持ちを伝えたかったからで。

普段色々貰ってばかりなので、今日は夕食に腕を奮った。栄養を考えて、彩り綺麗に作った料理は普段一人の時には作らない豪華さで。高杉さんの口に合うかは不安だったけれど、全て食べきってくれたので万々歳だ。
続いて軽めの食事を終えてからのデザート代わり。陶器の器に温めた牛乳40gと120gのビターチョコを入れて固形燃料で地道に溶かす。切り終わった具材をお皿に並べてローテーブルにコトンと置いて、高杉さんの隣に座った。


「あ？なんだコレは。」
「チョコフォンデュです。」
「…」

さっきまで優雅に煙管をふかしていた高杉さんが怪訝な顔で見てくる。まぁ、気持ちは分からないでもない。何故なら苺やバナナなどの果物の他にマシュマロなどのお菓子、そして野菜が並んでいるのだから。ステック状に切った人参、胡瓜、そしてブロッコリーにプチトマト…

「チョコベジっていうんです。」
「…聞いたことはある。が、実際目にすると…」
「野菜嫌いの子供でも食べやすいそうですよ？」
「…」

取り敢えず安全圏のマシュマロを串に刺してチョコをつけ、高杉さんの口元に運ぶ。すると渋々ながら口を開けて口に含んだ。

「…甘ぇ。」
「ビターチョコにしたんですけどね。」
「おら、口開けろ。」
「んっ」

あ、苺だ。これも安全圏。甘みと酸味が一緒になって美味しいな。思わず口元が緩む。
すると、チョコバナナをモゴモゴと食べている高杉さんが串に刺したチョコプチトマトを突っ込んでくる。不意打ち！高杉さんどことなく楽しそうなんだけど。

「ククッ、なんだその顔は。」
「むぐ…不意打ちはズルいです。」
「で？どうだ。」
「んーと、無くはないって感じですかね。」
「ほぉ。」

次は人参らしく、たっぷりと付けられたチョコに尻込みしつつ口を開ける。三分の一程口に含むと手が離され、代わりに高杉さんの顔が近づいてきた。
顎に手を添えられて下を向くことが出来ずに呆然としていると、伏せられていた目が開き、愉しげに細められた。

シャクっという音と共に離れた高杉さんは、人参の半分程を持っていってニヤリと笑う。やっぱり高杉さんはズルい。

「…そこにチョコはついてないですよ。」

苦し紛れに呟いたセリフは、熱くなった頬を冷ますには不十分で。高杉さんはククッと声をあげて笑った。



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