ジュダルくんの場合


「ジュダルちゃーん。」
「あ?んだよババア。」
「バレンタインって知ってる?」
「ばれんた?」
「バレンタインよ、バレンタイン!」

ババアが興奮気味に言うには、2月14日はバレンタインという日らしい。
なんでも、男から女に花束を渡して想いを伝える日だそうだ。顔を赤らめながら話すババアの頭ん中にはシンドバッドが居るんだろうけど、アイツはこういうのやらないと思う。それよりも俺の頭をよぎったのは、先日シンドリアに行った時に出会ったユキだ。

彼女を一目見たその瞬間、全身の血が沸騰したかのように身体が熱くなり、うまく言葉が出て来なかった。思い返している今でも心臓がドクドクいって、ババアの声なんか既に聞こえなくなっていた。

ババアの叫び声を背中に浴びながら市場へと脚を進める。煌帝国で神官をやっている俺はそれなりに有名で、国民から驚きの声があがるがそれを無視して花売りに声をかけた。
バレンタインは男から女へ、薔薇、食事、プレゼントをするのが一般的らしく、今日は薔薇がよく売れるそうだ。

「11本の束は如何ですか?」
「?本数に意味があんのか?」
「ええ。この花束は一心一意と呼ばれていて、一意専心を表します。」

一意専心、一途。
思わず浮かんだアイツの顔に頬が火照るのを感じ、俯いてそれを注文した。受け取った花束がなんだか恥ずかしくて、代金を投げやりに払ってそのまま絨毯で空に飛んだ。
絨毯に寝転びながら空を見上げ、花束を日にかざす。あー、買っちまった。
にやつく口元を押さえながら今後の予定を頭に浮かべる。シンドリアに行く前に、今の仕事を片付けてしまおう。そうすれば道中ユキの事だけ考えてられるし。
そうと決まれば早速取りかかろう。終わり次第、シンドリアに向かうんだ。

バレンタイン、会いに行くから。待ってろよ?



────

とは言ったものの。いざ当日、彼女を目の前にすると言葉に出来ないわけで。

「…!あっ…う…」
「?」

こてんと首を傾げて見上げてくる彼女に体温があがる。俺の周りに飛んでいるルフが桃色なのを見て、それにまた顔が熱くなる。

「こ、これ!!」

ばっ!!と花束を差し出して俯く。肝心の花束は此処に来るまでずっと握りしめていた為、包装のビニールはグチャグチャ。花びらも何枚か散った。

「?ありがとうございますぅ。これ…薔薇ですかぁ?」
「う、あ、そ、そう!!今日はバレンタインだって聞いて、それで!」
「此処にも薔薇ってあるんですねぇ。というか煌帝国にはバレンタインがあるんですかぁ?」
「あ、あぁ。男から女にプレゼントする日だって聞いた…。」
「そうなんですかぁ。ふふ、ありがとうございますぅ。」
「!あぁ!」
「薔薇って何か意味があったような…」
「!!!あ、わ、」
「?…ホワイトデー、楽しみにしておいて下さいねぇ。」
「(ほわいとでー?後でババアに聞くか)あぁ。分かった!」

煌帝国に帰ってからババアにホワイトデーについて聞き、再び体温が上がったのは仕方がないと思う。




気付いても気付かないふり。


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