斑の場合


バレンタインのチョコ作りをしている最中、斑がやってきた。まぁ、別に隠すような物じゃないから堂々と続行していたんだけど。
チョコを湯煎しているとき、ふと重要なことに気が付いた。

「はっ、猫にチョコっていいのかな?」
「私は猫ではないと言っておるだろうが!」
「いやでも…馬にチョコは興奮気味になるから良くないって聞いたことがあるの。斑は大丈夫?」
「問題ないわ。そこまで不安なら…」

ボフン

「これで問題なかろう?」

そこに現れたのは夏目くん似の男の子。いやでもこれは…

「斑の言う、仮の姿ってヤツだよね?」
「愛くるしい猫の姿もそうだがな。近くでじっくり見たことがあるのがレイコか夏目、あとはお前くらいなのだ。」
「なんだかなー。」
「?なんだ?」
「遠回しに断られているような…」

愛の告白って程でもないけれど仮の姿ってのもなぁ。折角斑にあげるのに、夏目くんに変化されても…。(夏目くんのは別にあるし。)

「お前がうるさいからこうして変化してやったのではないか。」
「そうなんだけどさー。」
「それに、変化など問題ではなかろう?」
「?」
「お前は、私がどんな姿でも気付くのだろう?」

自信満々なその顔は、どことなく嬉しそうで。思わず目を見張る。
言葉が出なくて、ユルユルと頷いた。

「…斑って時々コワいよね。」
「ん、なんか言ったか?それよりもチョコはまだか?」

ボフンと猫の姿に戻った斑は、シンクの上に登って鍋の中をお尻を振りながらワクワクして覗き込んでいる。危ないよ。

「まだだーめー。というか出来てもあげるのは14日だからね?」
「なにぃぃい!?聞いておらんぞ!?」
「初めて言ったからねぇ。」
「食わせろっ!」
「だーめ。七辻屋のお饅頭が向こうにあるから。」
「なに、七辻屋だと!?それを早く言わんか!!」
「なんだその変わり身の早さは。」

チョコがどうでもよくなるの早すぎでしょう。モシャモシャと饅頭を口一杯に頬張る斑は、口の周りをベロンと一舐めして言った。

「遅かれ早かれそれは私の物なのだろう?少しくらい待つさ。」
「……ふーん。」

無自覚なのか計算なのか。少し熱くなった顔を隠すように顔を背ける。後ろで愉快そうに笑った斑にまた体温が上がって。やっぱり斑はコワいと実感した。



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