鏡夜先輩の場合


2月14日。今日は世間一般ではバレンタインと呼ばれる恋する女子には大切な日…なのだが。
ホスト部ではハニー先輩の虫歯の関係で、チョコなどの甘いものが禁止になった。その為今年のバレンタインは、ホスト部員からお客様に花を贈る事となったのだ。
すると必然的に我が部でユキがケーキの類を作ることがなくなる訳で。

「作ってないですよ。」

キョトンとしながら平然と言ってのけたユキ。いや、確かにホスト部の今年のバレンタインは花にするから作らなくていいと言ったが、それはあくまでも部の話であって。

「…はあ、まったくお前は期待を裏切らんな。」
「だって此処最近、ずーっと新作考えたり作ったりでチョコ生活だったんですよ。」
「そうだとしても女性として何か思うところはないのか。」
「バレンタインが女性だけのイベントとは思わないで下さいよ。欧米では男性から女性にプレゼントするんですから。」
「ふむ、それもそうだな。そもそも、今年のホスト部ではハニー先輩の事もあって、我々からお客様に花を贈った訳だしな。」
「そうですよー。大体部の人にあげて、ハニー先輩に見つかったら大変ですしね。」
「ふっ、そうだな。」

それでもクラスに戻れば渡してくる女生徒は沢山いたのに。まぁ、ユキらしいといえばらしいが。

「ほら。」

そう言って差し出したのはブラウンがかったベージュピンクのローズブーケ。部で用意したものとは別に用意したこのブーケ。アンティークカラーが落ち着いた雰囲気を醸し出している。

「あ、ありがとうございます…。」
「本当は何処かレストランでも予約しようかと思っていたんだがな。お前の顔を見てやめたよ。」
「?」

頬に手を添えて目の下を軽く撫でる。そこには化粧で隠されてはいるが、寝不足のサイン。予想が的中して思わず苦笑いになる。

「あまり寝ていないのだろう?」
「まあ…」
「今日はバイトも無いのだし、部もそれほど混まないだろう。帰りは送っていってやるから、少し寝ろ。」

少し離れてポンポンと頭を撫でてやると、ユキは眉を下げて笑った。

「すみません、ありがとうございます。」

バレンタインが終わったら次はホワイトデーが来て。寝る間を惜しむというよりも没頭する、というのが彼女には当てはまる。だから無理矢理にでも、彼女に休息を与えなくてはならないのだ。

奥の部屋に行き、ハニー先輩から貰ったという、肌触りの良いネコを模した抱き枕を抱き締めてソファに寝転ぶ彼女に毛布をかける。(以前ベッドを買ってやるといったら全力で断られた。)カーテンを閉めて明かりを遮ると途端に暗くなる部屋。彼女に近付くと薄目を開けてぼんやりとしていた。
その様子が少し可笑しくて、前髪を掻き分けるように優しく頭を撫でた。目が閉じたのを確認してそっと顔を近付ける。

「おやすみ、良い夢を。」

一瞬だけ彼女の額に口付けを落とし、そのまま部屋をあとにした。








あまりバレンタインらしさはなかったかもです。バレンタイン前後はきっと彼女は忙しいので。ハニー先輩の虫歯の話は原作にあるヤツです。
ローズブーケの意味は特にありません。写真で見た時に色が大人っぽくて鏡夜にピッタリかな、と思ってそのまま使いました。


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