神威さんの場合


阿伏兎さんにお願いして宇宙船の厨房を借りることに成功。大量の食材と共に乗り込んで半日。黙々と料理を作り続けていた。料理も終盤、ふぅと息を吐いた時に入口から人の声。どうやら神威さんが仕事から帰ってきたらしい。

「あれ、ユキ?」
「あ、神威さん。お帰りなさーい。」
「何やってんの?」
「料理作ってます。」
「そんな事わかってるヨ。…食べていい?」
「あ、先に手洗って下さいね。」
「ん。」

コトコトと鍋を火にかけながら神威さんが手を洗うのを見届ける。神威さんは手洗いうがいを済ませると、私の手元を覗き込んできた。ちょ、鍋が見えないっす。

「まだ作り終わるのに時間かかるんで、先にお風呂でもどうぞ。」
「んー。あ、それ美味しそう。」
「味見してみます?」
「うん、あー。」

パカッと口を開ける神威さんを思わず二度見。雛鳥ですか、雛鳥なんですか。
鍋の中身を一つ箸で挟んで口元へ持っていく。

「熱いですから気をつけて下さいねー。」
「ん、もごもご」
「薄くないですか?」
「うん、美味しいよ。もーいっこ、あー。」
「もう…はい。これでお風呂行ってきて下さいよ?」
「うん、あー…むぐ」

少し大きめの物を口に入れると、神威さんは口をもごもご動かしながら部屋へと戻って行った。
その姿にふっと笑いながら鍋の中身を皿に盛り付ける。さて次は、と頭にレシピを浮かべながら準備に取りかかった。

部屋で食べようという神威さんからの提案で、神威さんの部屋へ移動。大量の料理を机に並べる。いやー頑張ったわ私、と自分に感心しながら席につく。

「お疲れサマ。」
「ありがとうございます。」
「んじゃいただきます。」
「どうぞー。いただきます。」

口一杯に料理を食べ進める神威さんを見てひと安心。自分も食べようと箸を伸ばした。取り敢えず自分の分を確保。あ、もう少し胡椒があったほうが良かったかな。

「で?今日はどうしたの。」
「え?」
「ユキが此処に来るなんてただ事じゃないでしょう。なんかあった?」
「なんかというか、今日ホワイトデーじゃないですか。」
「…あー。」
「バレンタインにご馳走になったので、阿伏兎さんに頼んでお返しに来ました。」
「ふーん…」

私は手を止めて話しているが、神威さんは食べながら話している。器用だなぁ。食べ方キレイだし。

「ま、なんにも無いなら良かったヨ。」
「?はい。」
「ご馳走さまでしたー。」

え!?もう?早いなぁ。私ももう終わりだけど、その数倍をほぼ同じ時間で食べきってしまえる神威さんて。作りがいがあるよね。

「美味しかったヨ。わざわざありがとうユキ。」

優しい顔でぽんぽんと頭を撫でられる。なんとなく気恥ずかしくなって誤魔化すように頬を掻いた。


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