誕生日ケーキを渡したい
「おはようございまーす…って、あれ?」
僕の朝一の仕事は、銀さんと神楽ちゃんを起こす事だ。殆ど依頼の来ない万事屋の朝は遅いのだ。今日もまたそんな一日が始まるなと思って万事屋の扉を開けてから、漂ってきた匂いに思わず顔をあげた。
「あれ、なんだろうこの甘い匂い。またさっちゃんさんでも来てるのかな。」
草履を脱いで台所に向かう。其処で目にしたのはエプロンをつけた銀さんだった。
「お、おはようございます銀さん。今日は随分早起きなんですね。」
「あ?あー、まあな。」
声をかければ歯切れの悪い返事が返ってくる。それに首を傾げながら、神楽ちゃんの寝ている押入の襖を開ける。
「ほら神楽ちゃん起きて。」
「んーまだ眠いアル。」
「銀さんももう起きてるよ。顔洗っておいで。」
目を擦りながら洗面所に行く神楽ちゃんを見送る。銀さんはひと段落ついたのか、エプロンを外して椅子に座っていた。
「僕朝ご飯作りますね。」
「あー、今日は作ってある。」
「え!?今日銀さんの当番じゃないですよね?」
「あーまぁついでだついで。」
ガシガシと頭を掻いた銀さんに再び首を傾げてから、食器を出してご飯をよそう。後は卵焼きと昨日特売だったメザシ。味噌汁を注げば、神楽ちゃんの当番の時(卵かけご飯)よりも豪華な食卓の出来上がりだ。
「なんかいい匂いするネ。銀ちゃん私に内緒で何食べたアルか?ズルいアル!」
「ちっげーよ。おい神楽、それ食べんなよ!」
「なんでヨ!銀ちゃんばっかズルいアル!」
「あーもう神楽ちゃん、口からお米飛ばさないでよ!でも確かに珍しいですよね。いくら食べたかったからといって、こんな朝から作るなんて初めてじゃないですか?」
「あー…」
言い淀む銀さんにちらりと視線を向ける。因みに神楽ちゃんは三杯目のご飯をムッとした表情でよそっている。
「俺が食べるんじゃねーよ。」
「え、そうなんですか?誰かにプレゼントでもするんですか?」
「そんな所だ。だから神楽!絶対ェ食うなよ…って、アァァァァァァア!!?」
「もちゃもちゃもちゃ」
一瞬目を離した隙に、神楽ちゃんの手と口元がクリームで真っ白になっていた。
「テメッ何食ってんだァァァ!!食うなっつったろ!?なんだそのクリームまみれの顔はァァァ!!?」
「大丈夫ヨ銀ちゃん。ちゃんと丸いままアル。」
「なんか小さくなってるんですけど!蝋燭みたいな細さなんですけどォォォ!!」
「言わなきゃバレないネ。」
「ふっざけんなァァァ!!」
頭を抱えて立ち上がった銀さん。それ程あのケーキは大切だったって事か。まぁ、早起きして作るくらいだからよっぽどだったんだろうな。
そのケーキが送られる人が気になるところだけれど、銀さんの大切な人ならばそう遠くない未来に会えるだろうと期待してクスリと笑った。
「笑ってんなよ駄眼鏡が。」
「僕に八つ当たりすんじゃねェェェ!!」