シカマル
「で?シカマル。」
「あ?」
暦の上では春。だけどまだまだ寒さが抜けない今日この頃。
「あ?じゃないわよー!バレンタインどうするか決まってんの?」
「…どうって?」
そういえばもうそんな時期か。アカデミーの頃とか女共の迫力が凄いどころか怖くて、サスケに同情した覚えがある。
「あのねぇ!男がいつまでも受け身でどうすんのよ!」
なんて過去を振り返っていたら、いのがバンッと机を叩いた。ここでなにを言っても仕方がないと長年の付き合いから分かっているので、眉間に皺を寄せるだけに留めて先を促す。
「最近では男から女に、ってケースも増えてきてるんだから!」
「へぇ。」
「やっぱり花束とか人気よ。ウチにも幾つか予約入ってたもの。」
当日はもっと売れるでしょうね!と意気込むいのを呆れ半分感心半分で眺める。
「で、シカマルも注文してくれるんでしょ?」
「お前…」
結局営業かよと溜め息を吐く。だけど幼なじみのコイツはこの程度の態度では全く懲りない。
「特別素敵なの作ってあげるから!」
もう一度小さく溜め息を吐けばいのは了承ととったようで、任せといてー!と意気込んで拳を挙げた。
────
はいっ!と気合い十二分にウインク付きで手渡された花束を片手にいつもの高台から空を見上げる。木の葉というわりと狭い集落にある名家の息子ということもあって、親父の知人とか古くからの知り合いも多いのだ。それほど大きなモノではないが、こんな花束を持ったところをそういう人達や同僚に見られたらからかわれる事必須だ。
「あー…どうすっかなぁ。」
持ち帰っても俺が世話するとは思えねえし。そもそも、一人暮らしの男の家に花瓶なんて洒落たモノがある筈がない。
ぼんやりと空を眺めながら太陽の位置を確認する。もう少ししたらいつも甘味処に行く(別に決まってるっつーわけじゃねぇけど)時間だ。
「めんどくせぇ…。」
ぐだぐだと考えていたって仕方ねえし行くかと腰をあげる。
道中それはもう注目を浴びた訳だが、俺が持ってたというこの花束を受け取って貰えたとしたら、彼女に気のある奴らに凄ぇ牽制になるんじゃないだろうか。そんな事を考えていたら視線なんて気にならなくなっていた。
「いらっしゃいませー。」
いつものようにふわりと微笑んだ彼女に気恥ずかしくなって首の後ろに手をやる。いつものように席に向かわないからか不思議そうな顔をした彼女に、自分の背に隠すようにして持っていた花束を差し出す。
確かに、片手に花束っつーのも客として可笑しいと思う。だけどその戸惑った様子にさえも胸に温かさを覚えて。
「今日、バレンタインっすよね」
「え、あ、はい…」
「受け取って貰えませんか」
俺の顔と花束を交互に二度ほど見てから、戸惑ったように手を伸ばして受け取ってくれる。その一瞬に掠めた手に平静を装いつつも胸の高鳴りを感じて。
今日は互いに気恥ずかしいだろうと(寧ろ俺がいたたまれない)店を離れようとすると、彼女が慌てた様子で少し待ってるように言った。
暫くして戻ってきた彼女はその手に小さめの紙袋を一つ持っていた。もしかして、と淡いながらも期待してしまうのは男なら当然の事だと思う。
「あの、簡単なもので申し訳ないんですけど…」
ガサリと袋から取り出したのは綺麗にラッピングされたビニールの袋。それは透明な袋で、中が見えるようになっていた。それを見せるようにして、彼女は話し始めた。
「クッキーなんですけど、良かったら食べて下さい。」
「あー、ありがとうございます。」
中身は見る限り、星型の可愛らしくデコレーションされたクッキー。手作り感のあるもので、白と茶の二色がある。茶色はココアだろうか。
ユキさんはそれを持ってきた小さめの紙袋に入れて差し出してくれる。それをそっと受け取って、上から中身を眺める。
貰えたからといってこれを本命と考えるほどめでたい思考回路は持っていないが、貰えるとは思っていなかったので嬉しいものは嬉しい。だから。
「嬉しいです。」
本命ではないにしろ、大勢いる客全てに配ってるとは思えねぇ。だから、今の言葉に嘘偽りなんて無くて。
だらしなく緩んでいるだろう口元と、赤く染まった頬を隠すようにして口元に手を添えた。
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