「っ、はー…」
漸く涙もおさまり大きく深呼吸をし、ずびーっと可愛げなく鼻を掻む。女子力の高いいのちゃんは、ハンカチを貸してくれるだけでなくティッシュも置いていってくれた。尊敬する。
空を見上げれば、青空だったのがほんのり赤く染まってきていた。随分と此処に居たんだなぁとぼんやりと空を見上げる。
だけど彼女の言っていた通り、部屋で閉じこもるよりもずっとスッキリした気がする。
もう夕方だし、此処の主(シカマル)も来ないだろう。だったらこのまま夜空になるのを待つのも良いかもしれない。そう思いながら服が汚れるのも気にせずにゴロリと寝転ぶと、目の前に広がるのは赤く染まった空。風が吹いて草木が揺れ、遠くで子供達の笑い声が聞こえてくる。
あぁ私、ちゃんと此処で生きてるんだなぁ。
おさまったはずの涙がまたじんわりと滲んできて。拭うこともせずにいれば、自然と頬を流れ落ちるソレ。
ただぼんやりと、何を考える訳でもなく空を見上げて目を閉じれば、小さく小さく紡がれた声を耳が拾った。
「ユキさん…?」
きっと、声だけではわからなかった。足音だって、気配だってしなかった。だけど、此処に来るのは彼しか居ないって、どこかで確信を持っていたのは事実で。
少し驚いた表情をしているであろう彼の顔を、私は寝転がったまま耳を傾けるだけで見ることはしなかった。先程までとは違い、足音を小さく出しながら近付いてくる。
「…泣いてたんすか」
傍らにどさりと座ったシカマルが、そっと涙の伝った痕のある頬を撫でる。それにピクリと反応して、そっと目を開ける。
───なんて顔してるんだ。
眉間に皺を寄せて痛ましいような表情をする彼を見て、こっちが心配してしまう。
「っ」
「シカマルくん…?」
起きてるなんて思わなかったのか少し驚いた顔をして、伸ばしていた手を一瞬引いた。
それでも辛そうな顔をしたままのシカマルに、ヨイショと声には出さないが起き上がる。乱れた髪を少し撫でていれば、シカマルが小さく言った。
「…なんか、あったんスか」
「えっと…」
何にもないよ、というのは簡単だけどきっと目だって鼻だって真っ赤。化粧だって落ちてて、もしかするとパンダかもしれない。そんな状態で何でもないなんて、心配してって言ってるようでなんか嫌だった。だからなるべく明るく、大したこと無いって思ってもらえるように笑みを浮かべた。
「訳あって手放したアクセサリーが今日売れちゃってたんです。あ、はは…大したものじゃないんだけど、思い出の品って奴だったから、少し感傷的になっちゃって」
いざ言葉にしてみると、治まった筈の涙が徐々に込み上げてきて。泣くな泣くな。少し深めに息を吸って、気持ちを抑える。
「、そんなに…」
顔をあげれば、目を細めて眉間に皺を寄せ、不機嫌というよりは切ない顔をしたシカマルが居て。
「そんなに大切なモノなんスか」
疑問というよりは断定的に問い掛けで。そのまっすぐな瞳を見つめながら先ほどの笑みを止めて小さく微笑んだ。
大切、大切だよ。
私がちゃんと其処に居たっていう証明。
私はちゃんとあの場所で生きてたっていう、数少ないモノの一つだった。
「…うん」
無くしてから気付いた沢山の大切なもの。
それを大切だって声に出して認めることで、漸くこの世界で生きるための心の整理がついた気がした。
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