プロローグ

「……ナルト、本当に行く気かの。」

火影邸の地下にある薄暗い廊下を越えた先にある部屋。限られた者しか入ることの出来ないこの場所に、とある少年と老人が居た。地下だというのにその部屋は明るく、所々に可愛らしい小物が置いてある様子は、部屋の主の性格を物語っているようだ。
巻物に視線を落としている少年の歳は十代後半。その少年を老人は孫を見るような瞳で心配気だ。

「当たり前だろ。俺達が何のために研究してきたと思ってんだよ。」
「うむ…」

床に散らばる幾つかの書面。そこにはややこしい術式と見慣れない書体の文字。この文字はとある少女の故郷の文字らしく、彼等以外が容易に読むことは出来ない。

「あの子はなんだかんだ言ってずっと帰りたがっていたじゃろう。」
「あぁ。」

それを、彼等に悟らせないようにしていた。あの少女はとても強い一方で、この世界に似合わないほど優しくて。元の世界に帰ったと思われる今、その平穏を奪う事に意味があるのか。

「関係ねぇよ。」
「ナルト…」
「俺達を勝手に救っといて勝手に居なくなるなんて許さねぇ。」

少年の瞳はギラギラとたった一人の少女を渇望していて、その想いの強さを再認識して老人は息を呑んだ。

「何処に居ようと関係ねぇ。絶対ェ捕まえてやる。」

その瞳を闇に染め、幼い少年二人だけで暗闇を生きていたそう遠くない昔。その闇を照らすだけではなく、歩む未来さえも照らし出して。いつしか少年達の瞳に光が宿った。
その変化を与えてくれた少女に老人は多大な恩を感じると同時に、自分が出来なかった事を悔やんでいた。しかし老人は少年等には、少女が必要なのだと気付いていたし、確信していた。

「では、三代目火影としてではなく猿飛ヒルゼンとして、うずまきナルトに一つだけ、言っておこうかの。」
「…あぁ。」

覚悟を決めたように老人は一拍おいて言葉を紡いだ。少年も巻物から視線をあげ、老人を見つめる。

「何処に行ってもお主等なら大丈夫じゃ。必ず…必ず幸せに…っ」
「あぁ。」

老人は込み上げてきたものを飲み込む為に顔を伏せた。それを少年は見ない振りをする。

「っ…、儂が生きている間にまた、顔を見せに来るんじゃぞ。ナルトと、シカマルと、勿論…ユキと一緒に。」
「…あぁ。」

約束出来ない未来を語りながら二人は微笑んだ。いつかそう遠くない先に再び会えるその日を信じて。火の国三代目火影猿飛ヒルゼンと、四代目火影の息子であり暗殺特殊部隊総隊長でもあるうずまきナルトの二人はそっと拳を突き合わせた。

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