腕組みした女が睨んでくる。
「で、何の用?」
「わかってるくせに」
「残念ながらバカなんで」
私の言葉に苛立ったのか組んでた腕を振り上げた。
ギュッと目を閉じて待っていると、平手打ちの変わりにキャアキャアと騒ぐ声が聞こえて、ゆっくりと目を開けた。
「またかよ」
「ブン太…」
「先輩、だろ」
「似合わない」
「敬え、バカ」
落ちていた私のカバンを差し出す。
きっと…いや、絶対に呼び出しはブン太が原因だ。
「帰るぞ」
「部活は?」
「ミーティングだけで終わった。幸村に感謝しろよ?」
「なんで私が?」
「終わったから来てやれたんだろーが」
「頼んでないし」
「可愛くねぇー」
「余計なお世話」
「ハイハイ」
私がブン太に2年遅れで入学してから何かと構ってくる。
恋人同士だからじゃなくって幼なじみだから。
でもそれを気に入らない人がたくさんいるのを知るには長くかからなかった。
そのたびにブン太は助けてくれていたけれど。
「少しは大人しくしろよ」
「無理。」
「何でだよ?」
だけどブン太は知らない。
私がそんな目に合っても隣を明け渡したくないって思ってることを。
ただの幼なじみだとしても。
それが一瞬にして崩れていくなんて思ってもいなかった。
隣同士に住む私たちは、お互いの玄関のちょうど真ん中に立ち話する。
それは習慣で当たり前のこと。
でも今日のブン太は着いてからずっと黙っている上に私を見ない。
「ブン太…?」
ゆっくり顔を上げたブン太は、いつになく真剣な表情をしていた。
「もう俺は守ってやれない」
全身の力が抜けて行く。
何を言われたのか理解出来ない。
ただわかるのはブン太が離れていこうとしてること。
「なによ、それ」
「俺には…無理だよ」
そう言って髪をぐしゃぐしゃと乱した。
「もう限界」
短い言葉を残して隣の家に入って行った。
残された私は踏ん張っていた最後の力が抜けて、その場にへたり込む。
「意味、わかんないっ」
そして自分が泣いてることに気がついた。
ずっとずっと一緒だったのに。
物心ついたときからずっと。
なのに、どうして?
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