セピア色の思い出から、鮮やかな現実へ


家を出る前に見た天気予報では今夜は雪が降るって言っていた。
そのせいか風が刺すように痛い。
首に巻いたマフラーを口元まで上げて歩く。
目の前には中学校の校舎。
3年生の途中で転校するまで通っていた校舎。
たった2年ぶりなのにすごく懐かしい気がする。

周りを見回して、あまり人がいないことを確認して門を入る。
休日のせいかほとんど生徒はいないのに、どこからか声が聞こえる。
その声を辿るとテニスコートに着いた。

「×さん…?」

突然後ろから聞こえた声に体が自然に震えた。
聞き覚えのある声に恐る恐る振り向くと懐かしい姿があった。

「え、不二くん…?」
「よかった。覚えてくれてたんだ」

相変わらずの綺麗な笑顔で答える。
忘れられるわけないよ、と思ったけど、それは言わずにいた。

「こんな所にどうしたの?」
「不二くんこそ、なんで?」
「卒業してからも月に何回か練習を見に来てるんだ」
「そうなんだ。今でもテニス部は仲良いんだね」

ちゃんと会話をしているのにまったく頭に入ってこない。
その理由はわかってる。

「わ、私、帰るね。邪魔してごめんね」
「待って」

引き止めたのは彼のほうなのに、何も言い出さない。
なんとなく気まずい空気が流れる。

「何も、聞かないの?」
「な、何を?」
「わかってるクセに知らないフリするのずるいよ」
「私は忘れることにしたの」

なんで私が責められないといけないのかわからない。
彼が何を言いたいのかわかってる。
だけど、それは私が責められることじゃない。
あの日のことはずっと忘れられなかった。
だからって私が責められることはないと思う。
まして、あれは…。

「本当はずっと、」

息をのんだのがわかる。
そんな距離。
それを縮めることも、まして離れることも私にはできなかった。

「もっと触れたいって思ってた」

私のほうを見ると、ふわりと笑った。
こんな綺麗な顔、初めて見た。
どんな綺麗な女の子でも今の彼の綺麗さには勝てない。
ゆっくりと距離が縮まるのがわかった。

「私、もう嫌」

唇同志が触れるまであと数センチ。
そこで止まった。

「ずっと考えて、悩むの嫌なの」

意味のわからない行為のせいで悩むのは嫌だった。
あの転校した日からずっと、彼のことが頭から離れなかった。
それを振り切るためにここに来たのに、また悩みの種を増やすのは嫌だった。

「単純に考えてくれたらいいのに」
「どういう意味?」
「さぁね」

不二くんは私の頬に触れて、そこにキスをした。

「や、やめてよ!」
「やだよ。僕のことを考えて、覚えていてくれるなら何だってする。
そう思ってあの日、キスしたんだ」

反射的に彼を突き放した。
いや、突き放そうとした。
だけど私なんかの力で彼の体が揺らぐことなく、逆に手を握られてしまう。

「ずっと、僕だけを見てて」

そう言うと彼は私の手を強く握った。
それを振り払う術を私は知らない。

2011/2/3

タイトル:確かに恋だった

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