成田菜々、ピンチです。
目の前には女子中学生。それも団体様。
背中には壁。
「本当にこんな人が彼女なの?」
「間違いないよっ!鳳くんに写真見せてもらったもんっ!」
「ありえないんだけどっ!どこがいいわけ!?」
写真を持ち歩いてもらえるなんて愛されてるじゃない。
なんて感動してる場合じゃないらしい。
「大学生なら大学生らしく、身をわきまえてよねっ」
ってか身をわきまえるって何だよ…。
迂闊だったのかもしれない。
公式戦で一般人もたくさんいるから見つからないと本人に内緒で来てみたものの、長太郎にす
ぐに見つかってしまった。
試合前に少し話したあとに今の状態。
見つからないだろうと思っていたことも彼の人気の高さも、すべて計算違いだった。
二度と来ないようにしよう。
「あのぉ…」
「ただのオバサンじゃん!」
私の言葉を遮り、発せられた言葉。
年の差は重々理解してたつもりだったけど同性から言われると辛いものがある。
ため息を吐きながら下を向くと、ヒステリックな声でたたみ掛けるように罵声を浴びせられた
。
何も悪いことをした覚えはまったくないのに、なぜ見ず知らずの人に文句を言われなきゃいけ
ないのか。
いい加減、我慢の限界があるぞ、と思った瞬間、彼女たちの声が一気に止んだ。
「菜々?何してるの?」
声の方向を見るとまだユニフォーム姿の長太郎がいた。
憧れの彼の登場で、私を囲んでた団体様は散って行った。
試合後にも関わらず走ってきてくれたのか、長太郎は息を切らしている。
「大丈夫?ごめんね」
「余裕。長太郎のせいじゃないよ。しいて言えばこの顔のせいかな」
そう言いながら、日に焼けた顔をつまんでみた。
「じゃ誰かと交換してみる?」
目線を辿ると同じユニフォーム姿の団体が、面白いものを見るようにこちらを見ていた。
「個性豊か過ぎて選べないよ」
そう言いながら顔を見上げると楽しそうに笑っていた。
指を絡めるように手を繋いだ。
「来てくれてありがとう。暑かったでしょ?アイス奢ってあげる」
繋いだ手を握り返し耳元に口を寄せる。
「もっと他に欲しいモノがあるって言ったら怒る?」
「…ばかっ」
手を振り払って押し返した。
こんな風に簡単に彼に一挙一動させられているというのに、これ以上、何を求めるんだろう。
見上げた笑顔の先には、恨めしいほど爽快な青空が広がっていた。
2006/11/1(2011/2/16 加筆/タイトル変更)
タイトル:確かに恋だった
君シリーズ5題「君に、捧ぐ」 1. 胸いっぱいの花を、(捧ぐ)