たったひとり君だけに


想像以上の立派な校舎に息を飲んだ。
隣では面白がってついてきた親友が声を上げて喜んだ。
文化祭の一般公開日だというのに周りは女子高生ばっかりで気後れしていた私は、はしゃぐ親

友を追い掛けて校門をくぐった。

「何階だっけ?」
「えっと…三階」

事前に渡されていたパンフレットを片手に歩いていると、赤毛の少年が私達の方向を指差し声

を上げながら教室へ消える。
親友と顔を合わせて不思議がっていると、その教室から見慣れた姿が現れた。

「遅いやんっ!」
「ご…ごめん」

真っ黒の細いスーツに眼鏡にはいつもは付けないチェーンがかかっている。

「菜々の彼氏ってホスト?」
「違ったと思うけど自信ない」

銀やマロン色の髪をした男性陣と共に立つ姿を見て、学校という場所でなければ絶対に逃げて

いたと思った。
立ち姿はあまりにも綺麗で、異様な威圧感を感じさせた。
目を輝かせる親友と苦笑いをする私を見て、侑士はいつもと同じ笑顔を見せた。

「席空いてるし入り」

差し出された手を眺めていると、急かすように手を揺らす。
隣にいたはずの親友は銀髪の彼の手を取って先に教室へと入っていた。
それと入れ違いに出て来た女生徒は駆け寄ってくるのが見え、私は反射的に一歩下がる。

「私のときと違う!ずるーいっ」

甘えた口調で言うと侑士の腕を掴み揺らす。
彼女の大きな瞳は私を舐めるように見ていた。
私はそれを全身で感じ、立ち去りたい衝動に駆られる。

「彼女なんやから当たり前やん」

周りがざわつく。
女の子が何か言おうとしたが、腕を振りほどいた力が強かったのか黙った。
私は手を引かれるがまま教室へと歩きながら、周りの好奇の眼差しを感じていた。

「侑士、いいの?」
「なにが?」
「さっきの女の子」
「ええよ。菜々は堂々と彼女ですって態度してたらいいんよ」

そう言いながら引かれた椅子に腰掛けると目の前では親友が楽しそうに笑っていた。

「年の割にはしっかりしてるじゃん」
「本当にね」

笑い返した頬が緩んでいるのが自分でもわかった。
侑士はいつも私の欲しい言葉をくれる。
繋いでいた手がいつまでも熱かった。

2007/9/30(2011/2/16 加筆/タイトル変更)

タイトル:確かに恋だった
君シリーズ5題「君に、捧ぐ」 4. たったひとり君だけに、

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