室内練習場に響くテニスボールの音。
それはどこか苛立ちを感じさせて、私は声をかけるのを戸惑った。
透明の壁に仕切られた向こう側にいる彼の背中を見つめながら思う。
一体、何を間違っていたのか。
どこで間違ったのか。
そんなものは何度考えてもわかるはずがなく、私は何度目かのため息をつく。
自然と俯いた顔を扉の開く音で上げると汗を拭いながら跡部が出てきた。
「なんだ」
「もうみんな帰ったよ」
「そんな時間か」
時計を見上げながら乱れた髪を正す。
静まり返った空気を気まずく感じるのは私だけだろうか。
部員の誰もが私の失恋話を知っていて、それに対して励ましや慰めの言葉をくれた。
たった一人、跡部だけが。
「ここにいずらそうな感じだな」
「まぁ…」
彼に対して嘘は通用しない。
つくろうことを諦めて返事をすると跡部はため息をついた。
「俺はお前を認めている。それは一生変わることはない。そして部員の全員が同じように思っている」
「跡部…」
「それでもまだ不満か?」
鞄にラケットを片付けながら私を見た跡部はどこか不安そうで、それは何年も一緒にいて初めて見た表情だった。
恋愛が最優先とは思っていない。
でもいつの間にか彼は私のすべてになっていた。
その彼から別れを告げられてから目の前が真っ暗になってしまっていた。
だけどすべてを失ったつもりになっていた私は、まだこんなにも光り輝く宝石を持っていた。
「菜々?」
「いや、なんでもない」
いつの間にか笑っていた。
別れを告げられて数日間、本当の意味で笑ったことなかったのに。
跡部が怪訝な顔で私を見ているのがわかったけど止まらない。
「跡部の太鼓判をもらえたらハリウッド俳優でも落とせそうな気がしてきた」
「調子にのるな」
そう言うと跡部は更衣室へと消えていった。
私はその姿を追いかけながら心の中で感謝の言葉をつぶやいた。
2008/12/3
タイトル:確かに恋だった
おだやかでせつない恋だった10題 3. かなしみはどこへ