隣りにいるだけで、熱い


(#1 その視線で撃ち抜いて /宍戸亮)


「悪趣味」

そう言って菜々は目の前で濡れたシャツの裾を絞る。
制服から落ちる水は、プールサイドに水たまりを作った。

「またかよ」
「またですね」

エスカレートする嫌がらせに菜々は苦笑いした。
原因はあの天才だ。

「それくらい耐えてもらわな」

そう言ってくくっと笑った顔が浮かんだ。
カバンから取り出したタオルで髪を乱雑に拭く様子が猫のようだ。
気紛れにふらりと現れて手を伸ばすとすり寄り、構わずにいるとまたふらりと消える。
そんな菜々だからいいのだと忍足は言った。

「まいったなー。帰れないじゃん」

ねぇ?と付け足して俺を見た。
拭ききれてない水が髪から頬を流れる。
それを肩にかかったタオルで拭き取ると、手が触れる。
反射的に目線をそらし、戻した時の瞳を見て忍足の気持ちがわかった。

悪戯心に満ちた瞳は、同罪だと告げながら揺れた。


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