まちぼうけのあさ


運命なんて信じていない。
信じられるのは自分の力と、体で感じたことだけ。

毎日が退屈でそれを紛らわすように仕事に時間を費やしていた。
すると気がつけば同期の男性を追い越して、社内で一番の出世株となっていた。
それは仕事へのテンションを高めるものではなく、余計に退屈を感じるものとなった。

「つまらへんって顔やね」

上司に頼まれ付き添った接待の席で言われた一言。
その言葉は同時に上がった、上司のご機嫌な笑い声でかき消された。
聞こえないフリをしようにも彼はそれを許さなかった。
彼はただ私に笑顔を向けていただけなので、それは気のせいだったのかもしれないけれど。

「人生がおもしろくなる方法、教えたげるよ」

接待が終了すると私たちは別の場所で待ち合わせた。
それからは閉店間際のゲームセンター、若者が集まる深夜のファーストフード店など普段は巡らないところに行った。
そして最後に行ったダーツバーを閉店まで居座り、追い出されるように出てこの部屋まで来た。

「うそつき」

いつもと同じ生活感の漂う部屋に響く時計の音。
部屋の空気の冷たさを感じながらキッチンでやかんを火にかける。
ふとシンクに目をやるとまだお酒の残ったグラスがふたつ。
昨夜のことは嘘ではないと告げていた。

何も変わらない。変わっていない。
ただひとつ、この気持ち以外は。

もし運命と呼ばれるものがあるとしたら、私はそれを願おう。
もう一度、彼に出会うことが出来るなら、昨夜の出会いは運命となる。

2008/12/3

タイトル:確かに恋だった
おだやかでせつない恋だった10題 4. まちぼうけのあさ

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