使われていない実習棟。
昼間でも薄暗いそこは様々な噂を生み、誰も近寄らない。
亜久津にとっては格好のサボりスポットだった。
最初は独占していたが、ある日から共有の場所になる。
毎日、昼休みだけ。
「教室で食えよ」
どこからか持ってきたソファに寝転びながら亜久津が言う。
菜々はごめんと呟くと、箸を置いた。
小さなお弁当を半分だけ食べると残りは住み着いた野良猫に与える。
それは毎日のことだった。
「あの、これ」
「?」
差し出された小さな袋を受け取り、菜々を見た。
一瞬だけ目が合うがすぐにそらされ、亜久津も袋に視線を戻した。
「もしよかったら…いらなかったら捨てて」
そう言うと菜々は小走りに部屋を出て行き、亜久津と猫と袋だけが残された。
空の模様がプリントされた袋を開くとおにぎりとカットフルーツが入っている。
昼休みも終わろうとしている時間に腹が減っていないわけがない。
亜久津は乱雑に取り出したおにぎりを頬張った。
その味は母の作る物とよく似ていて、あっという間に平らげられた。
古い実習棟の横にはゴミ置き場があり、亜久津は袋を捨てようとしたが手を止めた。
明日はまだ平日。きっと菜々は来る。
返せばいい、となぜか思った。
いつもなら迷わず、中身すら確認せずに捨ててしまうのに。
空には入道雲が。
もう本格的な夏は、始まった。
2007/8/8(2012/5/6 加筆)
タイトル:+DRAGON+BLUE+