手を繋ぐ帰り道。


会社帰り。
終電に乗り、帰り道に近所の居酒屋に寄った。
そして今は若い男に肩を貸している。

店へ入りいつもの様にカウンターに座る。
すると隣に若い男が座った。
疲れているのに誰かと話したくない。
それが知らない人なら尚更。
そう思って顔も向けずにお気に入りの焼酎を注文した。

「菜々先輩」

嫌に聞き覚えのある声に顔を向けると男は笑った。
あの頃と同じように、悪戯っ子のような目で。

「あ、あ…赤也!?」
「お久しぶりッス」

驚きのあまり大声を上げてしまったが、後ろの座敷で大盛り上がりをみせるサラリーマンの団体に飲み込まれていった。

「あ、俺も同じのを」

そう言った横顔が大人びていた。
可愛い後輩もいつの間にか成人していたのだ。
それから「今は何してるの?」なんてありきたりな質問から始まり、閉店まで話し続けた。
一緒に店を出たサラリーマン達は充分なほど出来上がっていて、おぼつかない足で隣にいた赤也にぶつかった。
それを「大丈夫ですか?」と支える彼を見て、変わったと実感する。
昔ならそのまま喧嘩…ってパターンだったのに。

「大人になったねー」
「んなことないッス、よ」

語尾の弱さに顔を覗き込むと赤也もさっきのサラリーマンとは同じように真っ赤になっていた。

「もしかしてお酒弱い?」
「菜々先輩が強すぎるんッスよ」

なんとか歩き進む赤也に肩を貸すと、憎まれ口を叩きながらも離れようとしなかった。
生意気な一年だった頃、コートで真田君にボロボロに負けた時にも肩を貸したことがあった。
その時はほんの少しだけ赤也が高かった身長も、今は見上げるほどになっている。

「待ってて」

そう言ってコンビニに水を買いに入る。
店内から様子を伺うとガードレールに座った彼は道行く女の子の視線を集めていた。

「遅いッス」
「レジ混んでたのよ」

水を受け取ると半分以上を一気に飲んだ。

「もう大丈夫?」
「大丈夫ですけど、大丈夫じゃないです」

私の鞄を持たない手を軽く繋ぐと、赤也は私を見上げた。
その手は大きくて硬そうで、男に成長したのだと実感する。

「俺、一駅隣りなんです」
「え?」
「電車ないんで帰れないんッスよね」
「…お酒弱いって嘘でしょ?」
「弱いとは言ってないッス」

手を繋いだまま立ち上がると足を進めた。
それに付いて行けずにもたつくと、赤也が振り向く。

「肩貸しましょうか?」
「いらない」
「そういう所、変わらないですよね」

赤也はそう言って私の腰を引き寄せる。
頭がグラグラするのはお酒のせいではない。
そう思って元凶を見上げると小悪魔のように笑っていた。

2007/7/27(2012/5/6 加筆)

タイトル:+DRAGON+BLUE+

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