職員室


涙が止まらない。
早く止まれと思うほど溢れ出す。
外では新たな門出を祝っているというのに。
送る側が泣いてどうする、と叱咤してみても止まる気配はない。

「先生、大丈夫?」

扉が開くのと同時に声がした。
咄嗟に扉に背を向け、大丈夫と答えた。

「嘘ばっかり」

大きな手が頭に乗る。
その手はせっかく整えた髪をぐしゃぐしゃと乱した。

「ちょっ、やめなさい」
「そう言って生徒扱い出来るのも今日までですよ」

振り向いて見上げた顔は清々しく笑っていた。
頭に乗っていた手が肩に落ち、力のままに引き寄せられる。

「黒羽くん…?」
「俺はこの日をずっと待っていた。だから泣かないでください」
「仕方ないじゃない、悲しいんだから」

困ったように笑った。
見えないけど、多分そう。

「好きな女の気持ちもわからない俺はまだまだ大人じゃないな」
「そりゃ成人まであと二年もありますから」

きっと二十歳になってもわからない。
私の不条理な気持ちは。

「旅立つ世界が大人にしてくれるのよ」
「さすが先生」

抱きしめていた腕が緩み、体を離した。
流れる涙はまだ止まらない。

「卒業、おめでとう」

世界は広い。
そこでは学校なんてとても小さい。
卒業して行くのが悲しいのではない。
不安で悲しいのだ。

「行くぞ」

そう言って握られた手。
その温もりで不安を打ち消せるほど子供でも、信じれるほど大人でもない。
精一杯、大人のフリをしている恋に夢中な女でしかないのだ。

2007/8/17(2012/5/6 加筆)

タイトル:+DRAGON+BLUE+

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