ラリーの音が響く。
実際には聞こえてないから、幻聴なんだ。
それ程に変わらない風景に安心させられる。
もたれた柱が軋む。
それは確かに過ぎた年月を物語っていた。
10年振りの同窓会が終わった後、学校に立ち寄り酔いに任せて忍び込んだ。
一緒に来た同級生達の声が聞こえる。
背後から近寄る足音に目をこらすと予想外の人物に驚く。
「懐かしいね」
「卒業以来だからね」
優しく微笑みながら静かに話す幸村くんは腰より少し高い壁を隔てて立った。
「菜々はよくここに居たよね」
「友達と待ち合わせてたから。本当に懐かしい」
ふと視線を落とすと首に掛けられたチェーンが月明かりに光っていた。
「これも懐かしい?」
見上げた幸村くんは目を細めて微笑む。
この学校が生活の中心だった頃に交換した指輪がチェーンに掛けられていた。
「まだ…持ってたんだ」
「菜々は捨てた?」
引き出しに眠っているのを思い出したけど答えれずにいた。
そんな私に幸村くんはゆっくりと向かい合う。
「彼氏いるんだってね?」
「うん」
「優しい?」
「うん」
大騒ぎしている同級生達の声が段々と遠ざかり、追いかけないとって思いながらも動けずにいる。
交わってしまった視線が振り切れない。
「僕は菜々の幸せを遠くで願っていられるほど優しくないんだ」
頭を力強く引き寄せた幸村くんの手は、あの頃と変わっていた。
かすかに触れた指輪が冷たい。
2007/9/6(2012/5/6 加筆)
タイトル:+DRAGON+BLUE+