体育館


初めて夢中になれることを見つけたのも、初めて一等賞を貰ったのも、体育館だった。
そして初めて男の怖さを知ったのも。
20本目のシュートは綺麗にネットに吸い込まれる。
生まれて初めて決めたシュートの快感が忘れられなくなって、次は勝利の快感を覚えた。
いつからかボールを構えた瞬間が一番神経が研ぎ澄まされるようになった。
その反動か日常生活で抜けてると言われてきたけど、あれは大失態だ。

「いつまで続けるつもり?」

ボールが跳ねる音に混ざり佐伯の声が響く。
聞こえていない訳じゃないけど、無視をした。
微かに聞こえた溜め息も。

「帰らないつもり?菜々」

私とゴールの中間に立ち塞がると呆れたように言う。
それでも私は構え、ボールを投げた。
それはリングに当たりながらもネットを揺らす。

「昼休みの事、気にしてる?」

嫌なくらい爽やかな笑顔で言う姿にボールを投げつけたい衝動に駆られる。
忘れたい事実が頭から離れない。

「悪い冗談は余所でして」
「冗談じゃないよ。菜々の初めてが欲しいだけ」

佐伯の言葉が終わらないうちに叩き付けたボールは高く跳ねて、二人の間を転がった。
爽やかだと騒がれてる笑顔も今は嫌味なだけだ。
縮まる距離に動けず、もどかしく手を伸ばした先にあった籠が揺れた。

「部外者は出て行って」
「どう言えば信じる?」

頬に触れた手に反応して揺れる身体が疎ましい。
振り払えない腕が震える。

「お願いだから…──」

再び揺れた籠に言葉がかき消される。
触れた唇が震えていたのは、私だけじゃなかった。
背中越しに見たコートは夕焼けに染まっていた。

2007/9/14(2012/5/6 加筆)

タイトル:+DRAGON+BLUE+

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