声を、聞かせて。


手が触れそうなギリギリの距離を保つ。
寄せた机に置かれた紙には綺麗な字が書かれていた。

「他に行きたいところはある?」

机を寄せ合った中でリーダーと任命された子が聞くと持ち合ったガイドブックを見せ合い意見

を言う。
それを彼女は興味なさそうに見るとまた視線を紙に移した。
出てくる地名を書き留めるけど事務的でただこの時間を過ごしてるだけだった。

「菜々は何かないの?」

発した声は彼女だけに聞こえる程度の音量で、他の人達は気にとめなかった。
色素の薄い瞳は俺を見ると小さく首を振った。
彼女が小さい身体をさらに小さく身を潜めると距離は遠ざかる。
それが俺と菜々の距離を表していた。


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「菜々って感じ悪いよな」

コートへ向かう途中、同じグループにいた奴が言う。
あれから菜々は一言も発することなく、一日の時間割が終わった。
曖昧な返事を返し、部室のドアを開けると菜々の姿が見えた。
真っ直ぐ行く先を見据えた姿はとても綺麗で目を惹きつける。

「何やってんだ、長太郎」

中から呼ぶ声が届いたのか、菜々が振り返る。
そらせずにいた視線が交わり、彼女は少し目を伏せた。

「気をつけてね」

上擦りそうな声を必死に抑えて言うと彼女は少し微笑み

「ありがとう、鳳君」

と言った。
呼ばれた名前がいつもより色付いて聞こえたのはきっと気のせいじゃない。
もっと話したい欲求に耐え手を振ると、菜々も小さく手を上げ再び前へと進んだ。
声を聴きたいと思うのは彼女が好きなんだ。
そう気付いた瞬間、身体が熱くなるのを感じた。

2007/9/23(2012/5/6 加筆)

タイトル:+DRAGON+BLUE+

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