三度目の正直、という言葉がありますが。
正直ということは、前二度は嘘であることが前提なのです。
一度目は中学1年の時に仮入部で出会ったとき。
二度目は中学の卒業式で。
不器用な彼は、二つ同時に大切に出来ないと言った。
三度目は、なしと決めてた。
三回転んで立てる自信なんて何もなかったから。
職員室を出て教室へと向かう。
三年は早い春休みに入り、登校している生徒はほどんどいない。
進路も決まり時間を持て余していた私は、自然と学校へと来ていた。
誰もいない教室は静かで、どこか異質だった。
窓際の席に座って外を眺める。
体育の授業でサッカーをしていた。
もう体操服を着て走り回ることもないのだと思うと、少し寂しい。
ドアが開く音がして振り向くと彼がいた。
「海堂くん」
「…っす」
「どーも。部活?」
「あぁ」
私が座っている前の席の机から教科書を取り出すと鞄に押し込む。
それを私は無意識に目で追いかけていた。
私は専門学校、彼は大学に進学することが決まっている。
もう同じ学校で、同じ教室で会うことはないんだ。
「専門、行くんだってな」
「え、あ、うん」
無口な彼からの切り出しに戸惑う。
気をつかってくれているのだろうか。
鞄を閉じるといつもみたいに背負うように肩にかけた。
「頑張れよ」
「うん。ありがと」
ぶっきらぼうだけど言葉は荒いけど、聞き心地いい低い声が好き。
傷だらけだけど、大きな手が好き。
「海堂くんっ、」
数歩歩き出していた体を止めて、振り向く。
真剣で、真っ直ぐで、誤解されやすいけど、本当は優しい。
告白をして玉砕しても次に会ったときに絶対に無視をしない優しさが好き。
困りながらでも、おはようって言ってくれることが本当に救いだった。
だから、やっぱり、二回転んでも、好きなの。
振り向いた彼は少し困ったように俯いてから、ゆっくりと唇と動かした。
「…あの、さ」
しっかり私を見て紡がれた言葉は、彼の三度目の正直だった。
2007/10/25(2012/5/6 加筆)
タイトル:+DRAGON+BLUE+