5分前


冬が近くなると恒例行事のように始まる告白大会。
我が校の一番人気はサエさん。毎日、放課後は女の子に呼び出されて姿を消す。
二番人気はヒカル。
反応することにすら疲れるほどのオヤジギャグの何がいいのか理解できない。
三番人気はサッカー部のキャプテン、ということになってるけど本当は違う。

「あれ?バネさんは?」

テニスウエアに身を包んだヒカルが言う。
それに私が体育館を指すと理解したようで。
ヒカルは昇降口にしゃがむ私の隣に座った。

「バネさんって地味に人気あるよね」
「そうかもね」
「気になる?」

ニヤリと意地悪そうな顔を向けるヒカルを睨み付けて体育館を見た。
天根と幼なじみで一緒にいることが多くて、それをきっかけにバネさんと仲良くなった。
妹のようだと可愛がってくれてるけど私はそれ以上を望んでる。
でも今を壊したくなくて言うことなんてできないけど。

「妹だもん兄に悪い虫がついたら困る」
「ふーん」

ヒカルは携帯を触りながら聞いているのか聞いていないのかわからない、曖昧な返事をした。
まだ教室を出て5分ほどしか経っていないのに何時間も待っているような気分だ。
昼休みに二人でハマったゲームの新作を買ったからやろうって言われて、それが今日だとは約束してない。
だけど体育館裏に向かう姿を見て体が動かなくなった。
ゲームがやりたいから待ってたって言ったら、いつもの笑顔で許してもらえるってわかってる。
そんなポジションに甘んじてる私は告白を決意した見知らぬ女の子達に負けてる。
こんなの逃げてるだけだから。
無意識に込み上げる涙を堪えているとヒカルは携帯を閉じて勢いよく立ち上がった。

「俺も嫌だな。悪い虫がつくの」
「え?」
「バネさんもだけど菜々にも」

携帯から大好きな曲が流れる。
確認するとヒカルからのメールだった。
当のヒカルは通り掛かった葵くんと一緒にコートへと去って行った。
バネさんと私に同時送信されたメールの内容に叫びそうになる。
背中を追い掛けようと立ち上がると大きな影に阻まれた。

「メール見たんだけど」
「いや、あれは…」

目の前に立ったバネさんは広い肩を少し揺らしながら息をしていた。
私の足元に座ると行き場を探していた手を引かれる。
私が強い力に負けて座り込んでも手は離されることなく、より強く握られた。

「困るな」
「え?」
「ダビデの言う通りに誰かに言われたのか?」

頭がクラクラするんじゃないかってほど横に振るとバネさんは柔らかく笑った。
そういう顔はサエさんの専売特許だと思ってたから鼓動が一気に早くなり、まだ握られたままの手に変な汗をかいてきた。

「傍に置いておけば大丈夫だって過信し過ぎたかな」

視界の端に誰かと話すふりをしながらこちらをうかがうヒカルの姿が見えた。
私の手を握っている日に焼けた逞しい手がどんどん熱くなる。
交わった目線はそれ以上に熱くて溶けてしまいそう。
そして5分後。
異様なほどニヤついたヒカルは蹴を入れられ、偶然通りかかったサエさんに散々からかわれることになる。
今年の人気ナンバー3はバネさんの戦線離脱によりサッカー部のキャプテンになりそう。
春のように陽気な冬が始まる。

2007/11/14(2012/5/7 加筆)

タイトル:+DRAGON+BLUE+

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