掌に溺れる


初めての恋は喜びと同時に痛みも連れて来た。
その痛みが彼から与えられるものなら、いくらでも耐えられる。
どうしてこうなったのか、何回考え直してもわからない。
何度目だろうと思い返して両手じゃ足りないことがわかり数えるのを止めた。
乱暴に書きなぐられた紙をグシャリと丸めてごみ箱に投げると、拒否するようにギリギリ入らない。
それが苛立ちを増幅させて私はついに机に伏せってしまった。

「何が悪いってのよ」

窓の下に広がる立派なテニスコート。
そこには練習する諸悪の根源の姿とそれを囲う女子生徒達があった。
私もそこに行って彼を思う存分、応援したい。
彼を愛おしく思う気持ちは誰にも負けないのに、どうして。

「がんばって」

呟いた言葉が届くはずもなく、彼はこちらを向く様子はない。
再び机に頬を寄せて喉に込み上げるものをぐっと飲み込む。
瞳を閉じると聴覚が敏感になり、彼の声をとらえた。
もしかしたら幻聴かもしれないけれど。
頭にとても優しく何かが触れた気がして目を開ける。
いつの間にか寝てしまっていたようで、教室は真っ暗になっていた。
まだ眠りから覚めない頭をゆっくり上げると声がした。

「やっと起きたか」

机の端に肘をつきながら私を見る人はずっと待ち望んでいた人。
目を見開く私を見て声を殺して笑う。

「いつからいたの?」
「30分くらい前」
「起こしてくれたらいいのに」
「まぁ、いいんだよ」

彼の指先が乱れた前髪をすく。
私はただ彼が好きで、この手を離したくないだけなのに。
そう思うと涙が止められなくなった。
それは頬に触れていた彼の掌を伝って机に落ちる。

「ごめ、ん」
「俺こそ、ごめんな」

彼は椅子から腰を上げると私の頭を胸に寄せ、優しく撫でた。
その手が暖かくてまた泣けた。

「どれだけ苦しんでても離してやれない」

何があっても離れたくない。それは私も同じ。
そのことを伝えようとしたけど言葉を発するはずの場所は彼に塞がれた。
せめて何か伝えられないかと触れた手がとても熱かったことは絶対に忘れられないと思った。

2008/7/25(2012/5/6 加筆)
兎荼様へ。6556hit リクエスト分。

タイトル:meg

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