ピンクタイフーン


「子供作って無理矢理にでも傍に置きたい」

目の前に座る親友の言葉に私は食べていた蕎麦を吹き出しそうになった。
男ならまだしも女が言ってるのだから驚きは倍増だ。
当の本人は火がついていない煙草をくわえながら外を歩く人たちを見ている。

「そう思うならまずは煙草を止めなさい」
「止めたら作っていいわけ?」
「そういう意味じゃなくて!」

私が食べ終わると菜々は煙草に火をつけた。
菜々が唐突に惚気るのは今に始まったことじゃないが、今回の何かは違うんじゃないか。

「彼氏って幾つになるんだっけ?」
「18歳」
「菜々は?」
「ピチピチのハタチ」
「嘘つき。大体ハタチをピチピチって言うあたりが年寄り臭い」

見ていたデザートメニューの角で菜々を小突く。
しかし不安になる気持ちはわからなくもない。
もちろん子供云々は過激過ぎて理解出来ないけども。

「何かあった?」
「あった」
「殴りに行く?」
「殴り殺して私も死ぬ」

机に伏せる菜々の手から煙草を取り上げ灰皿に押し当てる。
うーと唸り声を上げたかと思ったら突然静かになり、ぽつりと零した。

「女の子と抱き合ってた」
「事故だ、バカ」

割り込んできた声に驚き私も菜々も目を見開いて声の主を見る。
制服にキャップ、そして大きなスポーツバック。
大学内にあるカフェテリアには似つかわしくない姿に周りの目は釘付けになっていた。

「え、あー、え?」
「行くぞ」

その子は菜々の鞄を持ち、菜々の腕を掴んだ。
私は突然のことに圧倒されながらも、机に無造作に置かれた菜々のものを鞄へと投げ込んでいた。

「借ります」
「どうぞご自由に」

丁寧に頭を下げて行く姿に感動。
菜々はどこにいても君の物だよ、なんて心の中でエールを送ってみた。
連れ去られて行く本人は呆然としたままだけど。

若さ故の、なんて例えはよくあるけど、たまにはいいんじゃないかな。
人生には台風が吹き荒れる時も必要だ。
人ごとだから思えるのかもしれないけどね。

2008/3/15(2012/5/7 加筆)

タイトル:+DRAGON+BLUE+

/ main /


ALICE+