宇宙飛行士


どれだけ手を伸ばしても届かない。
だから焦がれるのだ。
たどり着く先が暗闇だったとしても。


「うわ、痛い」


屋上から見下ろした校門では平手打ちをくらった男と、勢いよく走る女がいた。
男は女を見送ると上を見上げた。
見えてなんかいないだろうけどとっさに隠れる私。
小心者の証のようで自然と肩を落としてしまった。
遊び人で有名な彼は数ヶ月ごとに校門や昇降口で同じことを繰り返す。
そんな彼を目で追いかけながらも手を伸ばすことは出来ない。
届かないとわかっているから焦がれる。

「のぞき見とは悪趣味やな」
「見られなくないなら校門はやめたほうがいいよ」

確かに、と笑いながら言う彼は失恋したようには見えなかった。
いつの間にか現れた彼は私の前に立ち塞がり距離を縮めた。
急に縮まった距離に彼を押しやり離れると楽しそうに笑った。

「これから楽しいイベントが目白押しやのに可哀相やと思わへん?」
「全く思わない」

私をとらえた瞳が悪戯っ子のように笑う。
離したいのに離せない。

「俺と付き合わへん?」

断る言葉を探すけど見つからない。
心臓の動きに気持ちがついていかない。
遠いと思っていた空を越えて、宇宙へ飛び出した人は何を思ったのだろうか。
見上げた空が眩しくて眩暈がした。

20071210

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