繋いでいた手が突然ぐんっと後ろに引っ張られて振り向くと菜々は空を見上げていた。
「菜々?」
「んー」
そのまま言葉は続かず、こちらを見ることなく空を見上げていた。
目を閉じて、深く息を吸うと再び歩き出す。
「何で見上げてたん?」
菜々は何も言わず、歩きながら空を見上げる。
空から降ってきた雪が顔に落ち、融ける。
それを見ていたら菜々はこちらを少し見て俯いた。
「空は毎日同じじゃないように、人も同じじゃない」
「何か不安なん?」
「違う」
「嘘や。ちゃんと言うて」
繋いだ手が強く握られ、そこにもう片手が重ねられる。
「私は何も変われない。いつまでたっても追いつけない」
「誰に?俺?」
「…そう」
頬に触れるととても冷たくて、その温度差に指先が痺れる。
「大丈夫やで。菜々はちゃんと一緒に歩いてる」
「でも」
「万が一、追いつけへんくらい俺が男前になってたとしても、その時もこの手は絶対に離してへん。何も変わらない」
短めのキスを額に落とすと菜々は照れ笑いをし、うんと頷いて再び歩き始めた。
2009/1/25
タイトル:確かに恋だった
おだやかでせつない恋だった10題 8. やさしいてのひら