浩之は小さい頃から母が大好きだった。
反抗期なんてものはなく、それこそ母に仇なす者あれば僕がやっつけてやる、なんて思っていたくらいだ。
そんな浩之も今では大学生として勉強に励んでいる。しかし浩之にはある悩みがあった。
それは彼女と関係が続かないことであった。
今までにも片手で数えられるくらいには恋人が出来た浩之だったが、みな1年と経たずに別れを告げられてしまうのだ。
歴代の彼女達はこぞって別れ際に同じことを口走る。
「お母さんと付き合ったら?」
本当は浩之もそうしたいのだが法律が許さない。元彼女達はみなどこか母に似ている女性達ばかりであった。
そのことを打ち明けると嫌な顔をされ、黙っていても必ず最後には同じことを言われるのだ。
確かに「母さんみたいになれ」とか「どうしてそんなことも出来ないんだ。俺の母さんならやってたぞ」とか言った記憶があるけれど、そこまで嫌悪されることだろうか。むしろ母さんのように振る舞えない彼女達の方が悪いのだ。
俺は無償の愛が欲しい。
母さんのように、どんな代償を払っても愛し続けてくれる無償の愛が。
それが分からない彼女などいらない。
3月になり浩之も大学卒業を迎え、あとは内定が決まっている会社への入社まで秒読み、といったある日のこと。
母が浩之をリビングへ呼んだ。
「母さんどうしたの?」
笑顔で席に着くと、母さんも笑顔で1枚の紙を取り出しテーブルへ静かに置いた。
その紙を見て浩之は固まった。
借用書。
無機質にそう書かれた紙には、2500万円と表記されていた。借用日は浩之の誕生日。
目の前の事実を受け入れられずに浩之は狼狽する。
「えっと……え?どういうこと?」
「あなたを今まで育てるのにかかったお金よ」
笑顔を崩さずに母が答える。そしてボールペンと印鑑を浩之の元へそっと手渡した。浩之は失意のままそこへ氏名を書き、印を押した。
無償の愛。
無償の愛。
大好きな母が浩之にくれていたものだと思っていたが、違う。
浩之から母へあげていたのだ。