その日は朝から天気が良くて、朝ごはんは私の大好きなお母さん特製のたまごハムサンドイッチで、食べながら見ていた朝の情報番組の占いでは1位だったの。
「あら、ふたご座が1位じゃない」
「うん!今日は絶対いい事ある気がする!」
「素敵な出会いがあります!ですって〜」
「ラッキーカラー紫かぁ…何かあったかな」
「ほらほら、いいから早く食べちゃいなさい」
「遅刻するわよ〜」と付け足されたからふと時計を見たら、確かにあと15分ほどで家を出ないといけない時間だった。
素敵な出会いがあります、か…。
高校に入ってから初めてできた彼氏には、好きな人ができたからと言って一方的に別れを告げられた。
その次に付き合った人はクラスの中でもかっこいい方だったし、優しかったし、愛されてるなーっていう実感もあったんだけど…元カノの先輩とずっと連絡取り続けてたのが耐えられなくて別れてしまった。
その後、彼がちょっとだけストーカーちっくになっちゃって…
おかげでその人と別れてから1年弱、私は恋愛が出来なくなってしまった。
好きになるのもなられるのもちょっとだけ怖い。
でも…私だって恋愛したくないわけじゃないの!
だから、誰にでも当てはまりそうな占いでもいい、何かきっかけが欲しいんだ…。
よし…と小さく決意して、引き出しに仕舞われていたアメジストカラーのピンをサイドに留めた。
「素敵な出会い……現れますように!!」
行ってきまーす!と玄関から叫んで家を出る。
占いの結果は常に頭の中でふわふわしてるけど、あまり期待しすぎても良くない…よね。
そう思って、ふぅ…と小さく息を吐いて平常心で通学路を進んでいく。
―チャリンッ
何か小さく音が聞こえてふと視線を向けると、道路に鍵が落ちていた。
視線の先には三つ編み姿の背の高い女の人が歩いている。落とし主はきっと彼女だ!
「あの、鍵落としましたよ!」
後ろから肩を叩いて声をかけると、私より20cmくらい身長がありそうな女の人がそっと振り向いた。
……ん???
「あれ、俺のじゃん」
……やっぱり……俺…って言ったよね…?
「さっき潰したやつが引っ張ったのかな…」
つぶ…した??物理的にですか…??
「拾ってくれてありがとね♡」
「い、いえ!では!」
なんかわかんないけどなんとなくやばそう!!!
そう感じて、全速力でその場を立ち去った。
どこが女の人なの!私のバカ!警戒心ゼロすぎ!
いやでも…怖いくらい綺麗な顔してたな…
顔ちっちゃくて睫毛長かったし、女装とかしたら女の人も勝てないと思う。
でも絶対やばい人だよ、あの人…。
不良ですって顔に書いてあったと思う、多分。
まぁでも怖い人でも鍵落としたら困るのは同じだしね、拾ってあげたのは正解だったよね、うん。
朝から怖い思いはしたが、特に何事もなく平穏に学校生活を送り、平穏なまま放課後を迎えた。
部活に行く友達を見送り、帰宅部の私はさっさと帰って昨日録画したドラマを見るんだ!
そんなことを思いながら校門までの道を歩いていた時の事だった。
「あ、いたいた!」
「え…どれ?」
「あの紫のピンつけてる子」
「…え?あれ!?」
紫のピンという言葉に反応して声のする方に視線を向けると、今朝の三つ編みの男の人と、隣にもう1人派手な髪色のメガネ男子がいた。
「みーつけた♡」
「え"っ」
思わずとても可愛くない声が出てしまった。
だって、ニコニコ笑顔が逆に怖い、綺麗な顔の怖いお兄さんにロックオンされてるんだもん。
しかもここまだ学校の敷地内なんですが…!
不良の考えることわかんない、怖い!
どうしたらいいの…と思っていると周りの人たちのザワつく声が聞こえてくる。
『あれ、灰谷兄弟じゃね…?』
『誰?有名人?』
『六本木をたった2人で仕切ってるやべえ兄弟だよ』
『お前知らねーの?喧嘩で人殺して少年院にも入ってたって話だぞ』
『有名な六本木灰狂戦争だな』
『まじかよ…超こえーじゃん』
なになになになに??????
え???なんて???
待って待って、そんな怖い人たちなの!?
全然ただの不良じゃないじゃん!!!
「ねぇねぇ」
「はっ、へっ!?」
「俺と付き合ってよ♡」
「…………へ…?」
私の間の抜けた声をかき消す勢いで、隣にいた派手髪の人が「はぁ!?」と叫んだ。
「兄ちゃんマジで言ってんの!?」
「え、なにが?」
「いやだってこいつ……すげぇ普通じゃん…」
あれ、なんか悪口言われた気がする。
よくわかんないけど悪口言われてる気がする!
「なんか可愛いんだもん♡」
「え…兄ちゃんどうした!?
もっと普通に可愛い女寄ってくるだろ」
「あーあの香水くさいやつら?
みんな同じ顔に見えるよね、うける」
「えー…」
私の身に何が起こっているのかはよくわからないが、とりあえずわかっていることが4つある。
1、この2人組が兄弟で、恐らくさっき聞こえた「灰谷兄弟」なのだということ。怖い。
2、その兄弟のお兄さんの方に、突然告白されてしまったこと。なんでなの!怖い!
3、彼はどうやら女性には困ったことがなさそうなこと。そうだろうなと思う。
4、弟さんの方は、お兄さんの行動が理解できないらしい。同感です。
うん……色々聞こえないふりして冷静に考えてみようと努めたけど無理…!
やっぱ意味わからないし怖いよ!!なんで私なの!?
「ねぇ返事は?」
「いや、えっ…」
「兄ちゃんまじ…なんでこいつ?」
「そ、そうです、なんで私ですか」
「…なんでだろ?全然タイプではないんだけど」
「「えっ」」
思わず弟さんの方とハモってしまった。
全然タイプじゃないなら付き合うことなくないですか??と言ってしまいたいけど、怖くて言えそうにない。
代わりに突っ込んでくれないかな…って弟さんをちらっと見ると、「可哀想」って書いてある顔で私を見ていた。やめてください。
「でもどうしても欲しいんだよなぁ…」
小さい声で何か呟いたので、私にはなんと言ったのかわからなかった。
とにかくこの場からどうにかして逃げなければ…と考えていたとき、お兄さんの方が突然、「そうだ!」と言った。い、嫌な予感…!
「自分で決められないならさ、悩まなくていいように選択肢あげるよ」
「選択肢…?」
「「はい」か「イエス」か、好きな方選んでいいよ?」
「………」
「2つから選ばせてあげるなんて俺優しい〜!
ねぇ竜胆!」
そう言って弟さんを絶句させている彼を見ながら、
「え…それ全然選択肢として成立してないじゃん…何言ってんの怖い…」
って心の中で高速ツッコミを入れる。当然口にも顔にも出せないけど。
「こ、断ったらどうなるんですか…」
「だから〜、選択肢は「はい」か「イエス」だってば」
「ひぇ…」
「俺に愛されるんだから幸せでしょ?」
そう言った時の彼の色気がすごくて、その光の少ない紫色の瞳に思わず吸い込まれそうになってしまった。
この人、本当に綺麗な顔してるんだよな…言ってることもやってることも本当に無茶苦茶だけど…
でもその瞳を見れば、本気で「俺に愛されるんだから幸せだ」って思っているのがわかってしまうから、ちょっとだけ好奇心が疼いてしまう。
そんなふうに思って、一瞬だけ、本当に一瞬だけこの人に絆されかけてしまったの。だから、
「…ひゃい」
そう、絞り出すように返事をしてしまった。
「うん、いい返事♡」
満足そうに笑った彼はやっぱり怖くて、これからどうなるんだと思うと、サーッと血の気が引いた。
「ふたご座のあなたには今日、素敵な出会いがあるでしょう!ラッキーカラーは紫です!」
今朝の占いを読み上げるアナウンサーの声が頭の中に流れた。
もう!!
どの辺が素敵な出会いで、
紫のどこがラッキーカラーなの!!
その日から、私の毎日は一変してしまった。
地味でも派手でもなく目立たない、竜胆くんの言った通り「すごく普通」だった私の平穏すぎる学校生活は、
「灰谷蘭」という巨大な台風によって一瞬で平穏さを失ってしまった。
校内のどこを歩いていても噂をされる。
「あの灰谷蘭の彼女ってまじ?」
「大人しそうに見えて案外アレなんだな」
アレってなんですか。私何もしてないんですけど。
クラスのみんなからも若干距離を置かれる始末。
親友だけは隣にいてくれるけど、「大丈夫、骨は拾うから」ってそれ完全に見捨ててるよね?
そんな気の重い1日を終えてため息をつきながら校門までの道を歩いていたら、また周りがザワザワしていることに気がついた。
嫌な予感がして校門を見れば、撮影中のモデルですか?ってくらいのポーズで校門に立つ蘭の姿が見えた。悔しいけど絵になる…。
「なまえおかえり〜迎えに来たよ」
「あの…ありがとう…なんだけど…」
「ん?」
「目立つからお迎えはちょっと…」
「だーめー。心配だから」
一体なんの心配を…って思いつつそれ以上は怒らせてしまうと怖いので言えなくて、蘭くんに言われるがまま手を繋いで学校を後にした。
「あの、蘭くん」
「蘭ちゃん」
「(えっまじですか)
ら、蘭ちゃん…」
「なーに?」
「家…こっちじゃない」
「うん、だってデート行くんだもん」
「アッ、ナルホド」
その日から蘭くn…蘭ちゃんは、毎日私を校門まで迎えに来てくれた。
放課後はいつもデートの時間で、手を繋いで歩く時は自然と道路側を歩いてくれる。
デートも蘭ちゃんが行きそうなオシャレなところだけじゃなくて、私が行きたいところを聞いてくれて、クレープを食べたりプリクラを撮ったりするような高校生らしいデートにも付き合ってくれる。
一緒に撮ったプリクラを携帯の裏に貼ってくれたの、本人には言えないけど嬉しかったな。
何より、蘭ちゃんと付き合い初めて1番驚いたことは、2人の記念日についてだった。
1ヶ月目から毎月欠かさずお祝いをしてくれるなんて、友達の彼氏の話でもそう聞かない。
まして、今まで遊んだ女の子は数知れずのくせに1人も顔を覚えていないと堂々と言ってしまうような人が、そんなマメなことをしてくれるなんて誰が想像できるの…。
友達も、私以外から蘭ちゃんの良くない噂をたくさん聞いたらしく心配してくれていたけど、
「え…?まさかのスパダリ…?
あの見た目で…?強くない…?」
って驚いていて、ちょっと恥ずかしかったけど、ほんの少しだけ鼻が高くてドヤ顔をしてしまった。
あんなにぎこちなく呼び始めた「蘭ちゃん」呼びも半年も経てば定着したし、
要は、私はすっかり灰谷蘭に惚れてしまっているのだ。
でも、恋に落ちたことによって新たな悩みが生じている。
蘭ちゃんはこんなに大事にしてくれるのに、私に手を出さないどころか、ちゅーすらしてこない。
半年だよ?半年も付き合っててちゅーすらないのってどうなの…?ただ大事にされすぎてるだけ…?
気にはなるけど、あんな感じで付き合い始めちゃったから、自分から聞くことはなんだか憚られてしまう。
どうしようかな…
明日は6ヶ月記念日だし、明日に向けて、今日のデートでそれとなくアピってみようかな…
なんて思っていたら、なんと今日のお迎えは竜胆くんだった。
「兄ちゃんちょっと用事あるから、俺が代わりに迎えに行けって…」
「あ…なんか、ごめんね…
一人で帰れるから大丈夫だよ?」
「そんなことしたら俺が家に帰れなくなるわ」
「いいから早く乗れ」って言われてヘルメットをかぶせられて、その日は竜胆くんが家までバイクで送ってくれた。
マンションの前でバイクから降りてヘルメットを返そうとしたとき。
「兄ちゃんとうまくいってんの?」
「え?あ、うん…たぶん…」
「ふーん。お前がどう思ってんのか知らないけど、こんな兄貴初めてだよ」
「…どんなふうに?」
「俺以外の人間を大事にしてるの、初めて見た」
「素敵なお兄ちゃんなんだね」
「そこじゃねえだろ、バカか」
竜胆くんはいつも「こいつの何がそんなにいいのかわからない」と言うけれど、こんな風になんだかんだで私たちが付き合うことを認めてくれている節がある。
だから意を決して、竜胆くんにこのモヤモヤを晴らすための質問を投げてみることに決めた。
「あ、あの…竜胆くんはさ、」
「あ?」
「蘭ちゃんに、大事にされすぎてるかもって思うとき…ない?」
私の問いかけに一瞬だけ固まって目が合った後、ン"ン"っとわざとらしく咳ばらいをして目を泳がせながら顎に手を添えた竜胆くん。
お洒落な丸眼鏡と相まってとても知的に見える。
蘭ちゃんの弟さんなだけあって竜胆くんもお顔立ち綺麗だし…この兄弟がモテるのは納得せざるを得ない。
私がそんな風に思っている中、竜胆くんはその知的ポーズのまま、
「兄ちゃん…そっか…うーん……」ってちっちゃい声で何かぶつぶつ言っている。
「…まぁよくわかんないけど、あれだろ」
「…?」
私から受け取ったヘルメットをハンドルに引っ掛けながら、目を逸らして話し始める。
「かなり無茶な感じで付き合い始めただろ、
兄ちゃんなりに気にしてんじゃねえの」
「あの蘭ちゃんが…?
無茶苦茶なのがデフォルトって言ってたよね?」
私がそう言うと、竜胆くんは私の方へしっかりと振り向いた。
「それだけ本気なんだろ、お前のこと」
「俺にはなにがいいのか全然わかんねえけどな!」っていつもの捨て台詞を吐いて、じゃあな〜って言いながらバイクを発進させた竜胆くんを視界に捉えつつも、
「それだけ本気なんだろ」って言葉に身体中の体温が沸騰したように熱くなって、頭も心も蘭ちゃんでいっぱいになってしまった。
竜胆くんの言葉が、本当だといいな。
でももし本当に蘭ちゃんが気にしているなら、それは自分が彼のことを怖がっていたからだ。
いやまぁ…仕方ないとは思うけど、正直。
でもだったら、蘭ちゃんと進展するには私が頑張るしかないよね!
それに、ちゃんと私も大好きなんだって、もう怖がってないんだよってことを伝えたい。
そして、ちゃんと対等な恋人になりたい。
夜も更けて、時刻は午後11時半を回っていた。
明日も学校だしそろそろ寝ないとやばいかな…と思っていたころ、やっと携帯が蘭ちゃんからのメール通知を鳴らした。
『なまえ、
今日は迎えに行けなくてごめん。
まだ起きてる?』
『蘭ちゃんお疲れ様。
起きてるよ。』
すぐにそう返すとまた携帯が鳴って、画面には「蘭ちゃん」の文字。
変な声がでないように軽く咳ばらいをひとつして通話ボタンを押す。
「もしもし」
「遅くにごめんな」
「ううん、声聞けて嬉しいよ」
素直にそう言うと、蘭ちゃんは少しだけ黙ってしまった。
あれ…最近は「好き」以外は頑張って素直に伝えるようにしてたんだけど…。
引かれた、かな…?
「…ちょっとだけ顏見たい」
「え?でも…」
「今なまえのマンションの前」
「い、今行く!!」
そう言って慌てて上着を羽織って、自分がパジャマなのも忘れて部屋を飛び出した。
でもリビングにいる両親にはバレないように、抜き足差し足で慎重に家を出る。
逸る気持ちでエレベーターのボタンを連打して下に降りる。
エントランスのガラス越しに大好きな人の姿が見えて思わず駆け出した。
「蘭ちゃん!!」
「えっおま…パジャマかよ! 」
「あっ!?見ないで!」
自分がパジャマ姿だったことに気づいて恥ずかしくなっていると、背の高い蘭ちゃんにぎゅっと抱き締められて、体ごと埋まってしまった。
「そんな恰好で外出ちゃダメ」
「うん…」
「俺以外の男に見られたら、俺そいつの目つぶさないとじゃん」
「ごめんね。
でも人の目はつぶしちゃダメだよ…」
腕が解けたかと思うと、上着の前のボタンをびっちりと閉められた。
これで良し…と満足そうな表情に思わずふふっと笑うと、「蘭ちゃんのことが大好きだ」という気持ちが溢れ出してきた。
そんな私に気づいて、「なんだよ?」と少し不服そうに聞く彼に、
「ねえ蘭ちゃん、大好き!」
そう、思わず言ってしまった。
言ってからハッとなって恥ずかしくなったけど、もう後には引けない。
ここでちゃんと言わないと! がんばれ私!
「だ、だから、その…
私とちゃんと恋人になってください!」
口を薄く開けたまま固まっている蘭ちゃんに、どうしようって頭も目もぐるぐると回りそうな私。
ショート寸前の頭で考え口から出たのは、私たちの始まりのあの台詞だった。
「「はい」か「イエス」か、好きな方選んで!!」
蘭ちゃんみたいに余裕そうには言えなかったけど、この人に告白するならやっぱりこう言わなきゃだよね?
「でもお前、最初怖がってて…」
「だって、よくわかんない不良にこんな無茶苦茶なこと言われたら怖いよ」
「……」
「なんで私なのって聞いてもなんでだろうとか言うし…何かのゲームなのかなって…」
俯いてしまった蘭ちゃんの大きくて綺麗な手をそっと握る。
「でもね、この半年間たくさん一緒に過ごして、蘭ちゃんの言ってたことは本当だったんだなってわかったの」
「…?」
「「俺に愛されるんだから幸せでしょ?」って」
丸く見開かれた目を見つめる。紫色の綺麗な瞳が夜に映えて、まるで宝石みたいでやっぱり吸い込まれそうになる。
「私、蘭ちゃんに出逢えて、
蘭ちゃんのこと好きになれて幸せだよ。
だからその…大事にしすぎないでっていうか…
ちゃんと、対等に恋人になりたいの」
思い切って告白したはいいものの、やっぱり不安でまともに蘭ちゃんの顔を見ることができない。
「…もう一回、言って。さっきの台詞」
「ん…どれ?」
「選択肢」
「…蘭ちゃん、
「はい」か「イエス」か好きな方選んで?」
長くて細い指が伸びてきて、大きな掌が少し冷えた頬を包む。
「…イエス」
その言葉が聞こえた直後、唇に柔らかくて温かい感触が伝った。
驚くほど優しく触れて、少しずつ深く、甘くなっていく。
温かくて、幸せで、蘭ちゃんでいっぱいで、
ちゃんと恋人になれたんだって実感できて、思わず涙が溢れた。
「泣くほど俺のこと好きなの?」
なんて、すっかり余裕そうでいつもの調子な蘭ちゃんに思わず笑ってしまう。
「そうだよ。
私に愛されるんだから幸せでしょ?」
悔しいから私もちょっとだけ余裕なふりをして、蘭ちゃんの真似をしてみた。
「…ふはっ、はぁ〜むかつく♡」
「ふふふ」
言いながら強めに抱き締められて、私も精一杯力を込めて抱き締め返す。
気づけば時刻は日付を跨いでいて、最高に幸せな記念日の始まりを迎えていた。
あのとき鍵を拾って、あと…蘭ちゃんのことを女性だと勘違いして、本当によかったな。
「はい」か「イエス」で答えなさい
(本気で相手を落とすコツは、余裕なフリして強引にいくこと)