01



その出逢いは、”偶然”だった。
普通に生活していたら、決して出逢うことがなかった人だったから。いいや、もしかしたら、それは、”必然”なのかもしれない。
意味をつけるのは、僕自身だった。


人生を変えるとき、ヒトは詩人になるとよく言うけれど。どうやら、恋愛というものは、僕にとって、人生を変えてしまう程の存在だったらしい。
なんて、他人事みたいだよね。こんな風に自分がなるだなんて、思いもしなかった。ちゃんとした恋愛なんてのは、いつぶりだろうか。
以前、友人が恋をした姿を見て感じていたものとは、全く違う。他人のことは冷静に判断できるのにさ、自分ごとってこんなにも難しいんだね。
ともだち、キミが言っていた意味がよーくわかったよ。恋は理屈じゃない、ってさ。理由が分かれば、こんな苦労しないんだ。



「あー、」


なんていうか、僕らしくない。
そんなの、誰より、いちばーん、僕自身が分かっていた。iPhoneのディスプレイを見て嘆いた僕に、隣にいた女性は眉をひそめる。


「うるせぇぞ、寿。」
「そんな風に言って、ミューちゃんに嫌われても知らないんだらね。」
「あら、カミュはわたしがどんなヒトか分かってお付き合いしてくれてるわ。もし嫌われるなら、これが理由じゃないわよ。」


ふふん、と少し演技がかった口調をした彼女だけれど、これが当の本人である彼女の恋人を目の前にすると、そうはならない。彼女が特別な顔をするのは、ミューちゃんだけだった。
恋は、ヒトにとって毒にも薬にもなる。彼等は、後者に違いなかった。互いにプラスにならない関係だったら、築き上げなかっただろう。
そこまでにいろんなことがあって、周りがその度におせっかいもしてさ、どんだけ両片想いを続けるのってことも、よく覚えてる。まったく、誰のおかげだと思ってるのかなあ。(勿論、最後は彼女の決意と勇気が、結果を出したってのは、分かってるよ。つまり、僕にもそういうのが必要になるってことも、もれなく!)


ようやく夏が終わり、秋の色が深くなっていく中、僕、寿嶺二という男は、めずらしく真剣に悩んでいた。しかも、まさか悩むだなんて予想にもしていなかった、恋愛のことで、だ。
今まで数えるのを忘れたくらい、恋人なんていたし、そういう存在じゃない、所謂ガールフレンド的存在も沢山いたけど、流石に30ともなれば落ち着くわけで。20代後半になってからは仕事の忙しさや、隣の彼女の恋愛ごとを間近で見ていたこともあいまって、僕にとって恋愛というのは、正直、蚊帳の外の存在だったと思う。
そんな僕が、だ。まさか、誰かを好きなるなんて、本当に、予想外だよ。
それも、隣にいる彼女の友達なんて、更に予想外だった。せめて、もっと他の子の子とかなら、よかったのに。
ああ、これは彼女が悪いわけではなくて、彼女に素直になれない僕の問題。互いを良く知っているってのは、少し厄介だった。



「あーの、さ。」
「ん、なあに、」


口から零れた呼びかけに、ふ、と彼女は笑う。この返し方は、彼女らしかった。いつもみたいに茶化すんじゃなくって、お姉さんになる瞬間が、ちょっとだけ苦手。普段は僕のほうが、お兄さんなのに。(って言えば、みんなに変わらないって言われる。)
本当は、言ってしまっていいのか、分からない。僕は、アイドルで、その仕事がすきで。でも、この気持ちに見ないフリをしたら、一生後悔をする気がした。押さえ込んで我慢して、蓋をすることのほうが、僕にとっては出来そうにないんだ。
駄目な男だって、言われるかな?いいや、彼女はそうは言わないんだ、分かってるさ。


「今度は、アナタが幸せになる番でしょ?」


ああ、らしくないよ、ともだち。キミもだけど、僕も、随分と、らしくなかった。




(気付いてた?)(なんとなくね。)(早く、言ってくれたらいいのに。)(だって寿、そういうとこは上手く隠すんだもん。)(お兄さんだからね。)(そういう問題じゃないわ。)(ま、ともだちが分かりやすすぎるんだよ。)(うそでしょう?)(そしてミューちゃんが鈍い。)(あら、彼は知らないだけだもの。)(はは、そうかもね。)(ま、なまえさんもそういうタイプだけどね。)(え?)(あれ、ちがう?)(あー、もう、)(なによ?)(何で分かったのさ、)(だから、なんとなく、だってば。)
Love makes me crazy.
(僕は、恋をしてるらしい。)







back/top