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誰に何を言われても、自分の好きになった人に対する感情って、変わらないものだと思う。
周りからどんな評価であれ、周りがどんな扱いをしていたって、自分にしてみれば、それは何の意味もないことで。そんなものが、僕の感情に影響を与えるかと言えば、それはノーだった。
勿論、 彼女の評価が悪いという意味でも、 扱いが悪いというわけでもない。ただ、ミューちゃんがともだちにそうなように、僕だって彼女にそうだった。
だかこそ、どうして?を聞くのは、ナンセンスだよね。僕が見ている彼女と、周りが見ている彼女が同じだとは思っちゃいないから。
仕草のひとつひとつだとか、気遣いのひとつひとつだとか。ほかの人からしてみれば、なんてことないことでも、そういうところにも、少しずつ、気持ちが増えていく。
ともだちに、なまえさんはすごいんだから、と自慢された記憶が懐かしいなあ。彼女の評価は間違いなかった。そのすごい、の意味がどうであれ、僕はこうやって、時間を重ねるたびに、胸を焦がしていくんだから。僕をこんな風にさせるのは、”すごい”よ、本当にね。



「寿って、緊張するの?」


くすくす、と電話越しで笑われたのは昨晩のことだった。失礼しちゃうよね、僕だって緊張するに決まってるじゃないの。好きな女の子とデートなんだからさ!


「まあ、わたしもいるけどね。」
「そりゃあ流石に誘えないでしょ?クリスマスのイルミネーションなんて。」


ラインのやり取りに出たソレを誘ったのはつい先日のこと。別に下心があるとか、そういうんでもないんだ。だけど、やっぱり2人で行くにはハードルが高すぎた。彼女が喜んでくれるならって、たったそれだけで誘ったのは本当だから、信じて欲しい。
確かに、こういうのって恋人同士っぽいなあ、なんては思ったけれど。だからこそ、誘う必要のないともだちも一緒なワケ。(こんな言い方したら、グーパンチが飛んできそう。)


仕事が終わったのは21時。先にディナーを済ませた2人に合流したのは、22時を回る頃だった。
クリスマスや年末年始に向けた仕事も相まって、近頃の予定はパンパン。その合間をぬってでも会いたいって思うんだから、僕は重症だ。
お疲れ様です、に今日の疲れなんて吹き飛んでしまうくらいにさ。(それを口にすれば、笑われるくらいにクサイセリフだ。)
行こう、と手を取ったのは、わざとらしかったかもしれないけれど、それでもそうしたかった、って許されるかな。


「なまえちゃん?」


不意に気付いてしまう自分が、恨めしくもあった。彼女の名前を小さく声に出したことには、気付いていなかったらしい。
その瞳に影が映るのは、何が原因だろうか。イルミネーションが綺麗なはずなのに、予想していた笑顔が返ってこなかったことは、僕にとって不安をあおるもので。いやに焦燥感を感じる。
どうしてそんな顔をするのか、何かあったんじゃないか、それはキミがひとりで抱えていること?
彼女と逆側にいるともだちは、イルミネーションに夢中で、そんなことには気付いちゃいないらしい。いや、彼女のことだ、僕に気を遣ってそう振舞ってくれてるのかな。


「ねえ、なまえちゃん。」


そう僕が声を掛ければ、少し下にある瞳がこちらに向けられる。涙ぐんでいるわけでもないのに、泣きそうな彼女の表情が、酷く気になった。


「もし、ね。」


悩み事があるなら、だけど、聞かせて欲しいな。全部じゃなくていい、言いたいことだけで。それでもなにか、話して欲しい。キミの傍にいてもいいんだって、思えるから。


なんて。僕のワガママに返ってきた言葉は、彼女を酷く酷く遠い存在だと感じさせた。


「、すみません。」


そんな言葉が欲しかったわけじゃ、ないんだ。僕のエゴだと分かっていても。





(いや!僕こそ、変なこと言ってごめんね!)(いえ、寿さんは悪くないです。)(そっか、ありがとう。)(...いいえ、その、ほんとにすみません。)(いやいや、全然!謝られるようなことじゃないよ!あ、寒くない?)(大丈夫です。お気遣いありがとうございます。)(はは、ただ僕が寒いの得意じゃないだけなんだ。)(寒いのにすみません、)(いや!平気平気ぜんっぜん寒くないからさ!そういえば、ともだちってばどーこいっちゃったのかな〜...)(探してきますか?)(大丈夫だよ、LINEしとくね。)
Love makes me Weak.
(この距離が酷く苦しい。)







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