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出来ない理由を探すのは、いつだって簡単だと思う。目の前の壁から目をそらすのも、おんなじ。
もちろん、避けていたら、ずーっと、同じ壁がわたしの目の前に立ちはだかって、その繰り返しだ。そう、これは、今までわたしが目を背けていた分ね。避けていたことを分かっているからこそ、こんなにも壁が高く感じる。
うしろを振り返って、壁を見上げて、大きな溜息。うしろに戻ることも、壁から目をそらして歩くことも、とっても容易い。けれど、このままじゃいけないことを、誰よりもわたしが一番わかっている。
自分自身と向き合わなければ、この壁は越えられないことも。


「自分を信じてあげて。」


ともだちちゃんの何気ないその言葉が、重くのしかかった。何気ないからこそ、なおさらに。
自信を持ったほうがいい、なんて今まで何度も言われてきた。だけど、そんなのどうやって持てばいいのか、分からない。 だからってずっと目をそらしてきたのも、わたし自身。
まるで、コンクリートで足元を固められたように、びくりともしないわ。そのコンクリートはわたしの意志ひとつで壊すことが出来ることも、どこかで分かっているのにね。
アナタは自分で自分を信じているからこそ、叶えたのかしら、その想いを。


「違うわ。わたしはただ、何を理由にしても、諦められなかっただけなんです。」


彼女の恋人の言葉に似た回答は、それが、想いを叶える本質なのだと思い知らされるかのよう。



寿さんがいつものテンションでやってきたのに、ともだちちゃんも同じテンションで返して。これはお互いに作っているのか、それとも、素なのか。彼等が2人きりの時にどんな風になるのかは想像もつかなかった。2人とも、いつもこう振舞うから。
もし無理をしていても、わたしには気付けない。大事な人の無理に気付けないなんて隣に立っていいの?ああ、それはいらぬ杞憂ね。隣に立つ準備すら出来ていないわたしがそれを思うのは、間違いだった。


「んもう、なまえちゃんも行こ!」


2人のやり取りを眺めていたわたしの手に、彼の手が重なる。突然の出来事に、一瞬その手を振りほどきそうになった自分がいた。
そのままでいて欲しいと思うのに、いけないと、どこか頭をかすめる感覚もある。これがなければ、もっと簡単だっただろう。でも、そんなこと出来ないから、苦労しているのよ。


イルミネーションは思ったよりとても綺麗なのに、いつもみたいに笑えている気がしない。
隣に立ってみて思うのは、わたしじゃいけないってことと、とても遠いってことと、それでも矛盾したかのように、好きが出てくる。抱かなきゃいいだけのことで、でも、それが出来なくって。
恋って、ひどく苦労するものなのね。出そうになった溜息を押し殺せば、隣にいた彼が、わたしを呼んだ。ともだちちゃんの周りには多いかもしれない、苗字ではなく名前で呼ぶ人が。
わたしの少し上にある瞳は、しっかりとわたしを映す。垂れたブラウンの瞳が、特徴的な人。ゆっくり、開いた唇が、言葉をつむいでいくのを、追いかけた。


もし、ね。悩み事があるなら、だけど、聞かせて欲しいな。全部じゃなくていい、言いたいことだけで。それでもなにか、話して欲しい。


「キミの傍にいてもいいんだって、思えるから。」


ひどく、ずるい。いくつかの感情が浮かび上がって、混ざり合う。
こんな言葉、特別でもないのにかけないでほしい。すみません、で彼の言葉から逃げたのはわたしの精一杯。
傷つきたくないから、期待させないで。アナタはわたしには、眩しすぎる。
こんなにも近いのに、こんなにも遠く感じた。




(ともだち、帰るよ。)(え?もう?)(良い子は寝る時間です。)(どうしてカミュみたいなこと言うのよ。)(ミューちゃんが何言ってんのかは知りません。)(うわあ、その態度傷つく〜!)(メンタルないって言われてるから傷つかないでしょ?)(わたしにもメンタルはあります!!ったく、あ!なまえさん楽しかった?)(え?うん、楽しかったわよ。)(そう、ならよかった!イルミネーション好きって言ってたから、見せれてよかったよね、寿?)(そうだね、楽しんでもらえたらよかったよ、)(ありがとうございます。)(というわけで、寿を足にして帰ろう!)(はいはい、いつも通りね。)(いや、わたしは逆だから、)(大丈夫大丈夫!)(ともだちちゃん運転しないでしょ?)(はは、大丈夫だよ。嫌じゃなければ、送らせて。)(嫌じゃなーい!)(ともだちには言ってません。)
Love makes me Weak.
(すき、はわたしには難しすぎる。)







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