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人は幸せになりたいのか?という問いに対して、とある作家はこう答えた。
人はみんな、自分が正しいと思っている。自らを否定されずに生きたいのだ、と。


すみません。


あの言葉とあの表情が、酷く心をざわつかせてからしばらくがたった。まるで、自分を否定されたかのように思えたのは、そんな返答を望んでいなかったからだろう。
きっと僕は、あの時、イエスを求めていたんだ。けれど、彼女の答えはノーに近い。まるで正反対で、僕は勝手に心を乱した。
ひどく自分勝手な人間だとは分かっている。自分の思う回答ではなかっただけ、たったそれだけ。そんなことは今まで他にいくらでもあったのに。でもね、そのどれよりも、こたえたんだ。
僕らのチームが結成された最初の頃、正直うまくいかなくって、人から言わせればひどい言葉を吐かれた時もあったけど、こんなに凹みはしなかった。というよりも、3人から一気に辛く当たられたことのほうが、随分今よりは楽だった。ああ、あれは、何がなんでも4人でしたいって気持ちが強かったのからなのかな。
いつもはそうならないのに、恋愛だけは相手がどう思うかを考えすぎてしまう。僕がこうしたいって思うのを全て無にしなきゃいけない気分で、まるで雁字搦めだ。ホントにらしくない。らしくないからこそ、ってミューちゃんは言うけど、この感覚は一体どうしたらいいんだろう。キミ達は一体どうしてきたの?



「ブッキーが俺にそんな顔を見せる日が来るとは思わなかった。」


そうやって目を細めたのは、自分よりもはるかに年下の後輩だった。共通点は同じ血液型だってことだけで、ともだちが勝手に開き始めたB型会ってのをキッカケに、僕らの距離はすごく縮んだと思う。後輩の中では、付き合いが難しいなんて思ってたけど、僕の気のせいだったらしい。話してみれば、僕らの感覚は似ていてさ。
今こうしてるのだって、昔だったらありえなかった。2人で出かけることも、まいった、なんて言葉を彼に吐くわけも、モチロン無かったよ。そして、それをマジメに受け止める彼だって、イメージすら出来なかった。


「B型のBは、まるで不器用のBだね。」


ともだちさんも、ブッキーも、俺もそうかもしれない。
手にしていたコーヒーを飲み干しカップを戻せば、ソーサーは小さな音を立てた。レンレンがそうには見えないよ?茶化したように笑った僕の言葉に、男でも色っぽいと思う彼の瞳は伏せられる。


「俺も、そうやってらしくなくなったこともある。相手のことを思えば思うほど、身動きが取れなくなった。だからこそ、ブッキーはそうするべきじゃないってことが言えるよ。」


真っ直ぐに僕を見つめる彼の瞳は、少なくても本気で。そんなことがあったのは、事実なんだって、思わされる。
知らなかった彼の過去。百戦錬磨のイメージを周りに見せる彼が、こうやって本当の過去を話す理由は、流石に分からないわけがなかった。目の前で弱音を見せた、僕のためだ。彼が周りに見せたい自分を捨ててまで、僕にくれたメッセージ。
その表情からも、その声からも、諦めるのがどれだけ悔しかったのかが、読み取れる。そして、ともだちが言っていた言葉を、不意に思い出すんだ。


もしかしたら、諦める理由なんて沢山あったかもしれない。彼が、アイドルだってことも、海外出身なことも、地位を持つことも、わたしとは反対だってことも。
でも、そんなのいくつ並べても、諦めたくないが勝った。彼がいいってね。だから、ここまで来れただけなの。


「あれは、彼女らしいよね。」
「ほんと。」


らしくないのは、ミューちゃんへの感情だったのかな。
たしかに、不安になることも多かったように見えたけれど、諦めないという決断をしたのは、やっぱり彼女らしかった。だからと言って、それは彼女だから出来たわけじゃない。彼女らしい、の意味は、彼女はそこからぶれなかった、ってこと。
ともだちが出来たのに、僕にできないわけが無いと思ってるよ。アア、言い方が悪いかな?彼女を最高の友人だと分かりながら、いいところも真似出来ないところもあるのも知りながら、僕に出来ないわけがない、を使うのはね、彼女と僕を比べた時に、諦める理由になることは、少ないからだ。
彼女みたいに、相手が外国の人でも、手の届かない爵位を持つ人でもない。なのに、ここで僕が諦めたら、彼女には、最後までひどい言われようをするんだろうな。

傷つくのが怖いのは誰だって同じだった。けれど、いつも最後を決めるのは、自分自身。自分の気持ち次第で、未来が変わる。それは、勇気だったり、未来への希望だったり。
僕は幸い、諦めるのは早い。彼女に相手がいるわけでも、想い人がいるわけでもなかった。


「目の前のことに自分の感情が振り乱されるのなんて、久しぶりだよ。」
「俺も、こんなブッキーは初めてだ。でも、だからこそ、」


そうやってレンレンの瞳が意地悪に細くなる。


「本気なんだ、って分かる。」


僕よりも、キミがぐんとオトナに見えた。
前に進む時、それはいつだって不安がつきまとうことを知っている。だけど、その時に、仲間がいることも、知っていたんだ。
だから、キミ達が、大丈夫をくれるなら、その言葉を信じようと思う。




(自分を信じられないなら、オレ達を信じてよ。)(みんなして、そう言うんだから。林檎センパイの受け売り?)(そうだね。)(んもう、流石だなあ。)(最高のセンパイに恵まれてるよ、俺達は。)(それにぼくちんは入ってる?)(モチロン。だから、上手くいってもらわなきゃ、俺達が困る。)(こんなことで悩んでる僕を見たら、おとやん達には笑われちゃいそうだなぁ。)(その気持ちは、本気で恋をしなきゃ、分からないさ。)(本気、ね。)(本気で狙ったものは、逃がさない?)(ううん。っていうより、本気だったら、僕もともだちくらいは諦め悪いな、って。)(じゃあ大丈夫だよ。)(その大丈夫はともだちに先行かれてるみたいで悔しいな〜。)(2人が仲良しだからね。)
Love makes me Strong.
(この言葉で、僕は強くなれる。)







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