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恋をしたことがあるか、そう問われれば、その答えは、YESだ。ただ、それが叶ったかどうか、っていうのには触れないで欲しい。
20代もそろそろ終わりを迎えるところで、わたしだって少しは焦ったりもする。未だに、年齢=恋人がいない歴だなんて、周りにも笑われる年頃だった。(実際に笑われるかは置いといてね。)
誕生日を迎えてしまえば、更に焦りは増すもので。友人の結婚ラッシュが相次ぐ中、相変わらずわたしは、仕事に明け暮れる毎日。思ったよりも、あっという間にこの年までやってきたかもしれない。


つい先日迎えた誕生日、水槽のあるオシャレすぎるレストランでお祝いしてくれるという男前なことをした女友達にまで、そんな焦燥感を口にするほどだから、よっぽど。結婚願望があるわけではないのに、徐々に迫る30という文字を見逃せなくなってきたことが、悔しい。


「え?大丈夫でしょ!」


彼女の大丈夫は妙に安心感があった。だからといって、わたしが大丈夫である自信は出やしないのだけど。ここまで、すっぱり言い切ってくれる人は、今までいなかった気がする。
だって、のあとに続けられるのは、わたしから見ればめちゃくちゃな根拠。


「なまえさんきれいだし、なのに可愛いし、しっかりしてるのに抜けてるとこあるし、無理しちゃわないかなあって思うところも含めて、可愛いもん。」


こうもスラスラと口に出来るのは、最早才能だろうか。自らに向けられた言葉に返せたのは、否定だけだった。滅多にこんな褒め方をされないせいもあって、少しだけ困ることもある。
これが彼女なだけ、まだマシ、かもしれない。彼女の友人である男性にそれを口にされた時には、どうしよう、かと思った。

彼女とよく似たそのヒトは、アイドルをしていて。彼女がいなかったら、絶対に出逢っていなかったし、むしろこれほど距離が近づくこともなかったに違いない。
まさか、自分の誕生日に仕事の合間を縫って駆けつけてくれるなんて、誰が想像しただろう。こんなの、ファンが知ったら、きっと殺されるわ。
部屋に飾った2つのブーケは、目の前の彼女と、それから彼からのもの。わざわざわたしの好きな花まで入れてくれるなんて、随分と気遣いの出来るヒトだった。(それが芸能界で生き残る秘訣なのかもしれない。)
彼の特別、なわけじゃない。と言えば、ともだちちゃんにきょとんとされる。


「寿は、どうでもいい子にそんなこと出来る男じゃないですよ?」


そういうの、よくない。自分が特別なんて、そんなこと思うのすら、おこがましくって。むしろ、彼女の友人だからこそ、そうやってしてくれるのであって。
落ち着けようとした心臓が高鳴るのは、仕方がなかった。こんなこと、生憎慣れてはいない。男のヒトにブーケをもらうことすら、記憶にないかもしれないわたしに、彼の言動はいつだって衝撃的。
例えば、タイミングのいい、お疲れ様のラインだとか、食事のお誘いだとか。少し疲れているときは、頼りたくもなる。
でも、わたしよりも彼のほうが随分と忙しくって、随分と大変で。わたしがそれに答えるのは少し、違うようにも思えた。
わたしの心を酷く乱す彼は、ともだちちゃんに少し悪いけれど、苦手なヒト、かもしれない。あまり距離を縮めてはいけないと、わたしの本能が告げるかのよう。根本的にまったく違うヒトだから、当然よね。


一定の距離をとるのは、当たり前の事だった。彼女と彼は、酷く仲がよかったし、それは何の違和感もなくって、彼女がホイホイと彼を呼び出すことも、何も問題はないと思うけれど。
わたしは、違う。彼とは出逢って一年も経っていないし、話が合うようなタイプでも、雰囲気が同じでもない。話していても、彼の好むものと、わたしが好むものは、全く違う。
そもそも、アイドルというだけで敷居が高くも感じるのだ。気さくなヒトだし、周りをよく見ていると思う、気遣いも出来る。
だけど、わたしと、寿さんは、違うじゃない?まるで、彼がわたしに好意を寄せるような言い方をした彼女へ言葉を返せば、苦い笑みが返ってくる。それは一線引いてるだけじゃなくって?と。
それは、わたしの胃を酷くぐるり、とさせた。


「そんなこと、ないのよ?」
「わたしは、なまえさんが寿を好きだから、そういう風に思うのかと、」


ちがうの、そういうんじゃない。って、お願いだから、そう思わせて。だって、恋するわけ、ないもの、彼は違うヒトだから。熱くなった頬は、きっとホットコーヒーのせい。




(違います。)(なんだ、残念。)(残念、って、)(わたし、なまえさんのことすきだから、なまえさんみたいなヒトに、寿の恋人になってもらえたらな〜って!)(ともだちちゃん、それは、本人の意思丸無視でしょ、)(え、大丈夫!なんとかなる!ヨユー!)(流石にそれはなりません、)(ねえ、なまえさん。)(はい?)(別に好きになってもいいんですよ?)(誰が、誰を?)(なまえさんが、寿を!)(だから、そういうんじゃないから。)(相手がアイドルとか、関係ないんですからね。)(それは、体験談?)(ふふ、そうかも。)
Love makes me crazy.
(恋、じゃないのよ、これは。)







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