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どうしたら、この想いが彼女に伝わるんだろう。
伝える、それはとても難しいことだった。相手が誰であっても同じ。分かっているからこそ、常に言葉を選ぶことをしてきたつもりだった。自分の気持ちが、相手に相違なく伝わる努力を、僕たちは生きる上でしなければいけないと、僕はそう思うんだ。
そして、今回は、特別も特別。自分の好きになった女性に、自分が本気であることを分かってもらわなきゃだなんて。実のところ、お手上げ状態だった。
女の子が嬉しい告白の仕方10選!そんなタイトルの記事が流れてくるSNSを見てもらえれば分かる。何度似たようなタイトルの記事をクリックしただろう。分かってる、こんなのは、ライターの感性が酷く反映されていて、みんながみんなそうなワケはないって。
はあ。こういうので振り向いてくれるんだったら、苦労しないよね。それでも、そんな記事を読まずにはいられない。期待と、希望と、不安が、いつだって入り混じるんだ。



「れいちゃんも、そういうの読むんですね?」
「そうそう。やっぱり、女性心は、僕も勉強しとかないと〜って!」


ヘアメイクの合間に読んでいた女性向け雑誌。アラサー女子の恋愛事情!なんてタイトルにつられたとは、口が裂けても言えない。こういうこと、高校生の時にもしたっけ。姉ちゃんの雑誌を勝手に読んで叱られたなあ。
そう思うと、どうやら僕の中身は、ティーンズの頃からまったく成長していないらしい。どうにか情報を集めて、準備をしておきたい。偶然を装っても、作りこんでおかないと気が済まない。ちょっと、策士っぽいところがあるのは、相変わらずなんだね。

今日の収録はスムーズに終わった。一日ずっと仕事が一緒だったランランは、僕の車に乗り込んで、あちぃな。と一言だけ。夕方の日差しは眩しくて、僕も彼も、サングラスをかけていて正解だった。
2人で一緒にいると、会話の比率に突っ込みをいれられることもあるけれど、それもそれで、居心地がいい。ぶっきらぼうなところは、彼らしさでもある。もう大分一緒にいることが増えて、互いにこの距離を気に入っているみたいだ。ま、そんなこと本人に言ったら、否定されちゃう気がするけど。


「で、お前はどうなんだよ。」
「えっ、何が?」


目の前は、赤信号。珍しい質問をしてくるものだと、彼に視線をやれば、ちょっとにやついた表情でこっちを見ている。ランラン、どうしちゃったのさ、そんな顔して!いたずらっ子のような顔は、彼がたまにする表情だった。


「いつもは見ねぇ雑誌見て、女心勉強してたんだろ?」
「聞いてたの?!」
「あ?聞こえたんだよ。」


あんなとこで会話してるお前が悪い。だなんて、まったくもう、僕はこんな子に育てた覚えはありません!テメェに育てられた覚えもねぇ。そんなこと言ったら、ぼくちん泣いちゃうんだからね!
茶番を思わず繰り広げるくらいには、ランランからのその質問に驚いた。だって、キミはそんなこと、興味ないと思ってたから。僕の恋愛事情に首を突っ込むわけでもないし、そもそも、恋愛なんてのにも、女性にも興味がなさそうなタイプだった。
僕が悩んでいるのを、察したのだろうか。普段だったら、絶対にこんなこと言ってこないことを考えると、その可能性が大いにあった。そう、ランランは素直じゃない。不器用なのも、彼のいいところで、彼らしさで。そして、そんな彼に、いつも僕は救われてる。


「ランランにはお見通しかあ。」
「ったく、何悩んでんだ?」
「ん〜、伝え方って難しいなって思ってさ。」


ちょっとだけ誤魔化したように笑った僕に、彼が返してくれるのは、真剣な表情。


「お前は、お前の言葉で伝えればいいだろ。寿嶺二の言葉で、勝負すればな。」


そうだった。すっかり忘れていた。
彼の言葉で、気付かされる。僕たちは、いつもそうやって勝負してきた。僕たちの想いが、ファンの子達に届いて欲しくて、それを必死に思って、言葉を紡ぐんだ。泥臭いことだって、いくらでもしてきた。その時に必要だったのは、テクニックじゃなく、心。
ー私は、寿先輩の本当の言葉が、一番、誰かの心を、開くのだと思います。後輩ちゃんがくれたその意味を、僕はちゃんとわかってなかったね。”本当の言葉”、それは、僕の”本心”だ。僕が心から、彼女に伝えたい言葉。隣の彼が、言うのは、紛れもなく、そのことだった。
まったく。僕には、なんていい相棒がいるんだろう。ありがとう、ランラン。


「ったく、らしくもねぇ顔すんなよ。」
「えっ?!何さ!どんな顔!?」
「うっせぇ。おい、肉食いに行くぞ。」


僕にしか伝えられない、僕だけの言葉。それが、本当の想いが伝わる方法だった。




(あっ、言っておくけど、ランラン。恋愛は、勝ち負けじゃないんだからね!)(大体似たようなもんだろ。)(違います〜!)(ハッ、他の奴に取られても知んねぇぞ。)(なんでそんないじわる言うかなあ。)(動かねぇテメェがわりい。)(返す言葉もございません。)(まあ、それだけ”本気”、なんだろ?)(はは、そう、だね。)(ったく、カミュもテメェも、らしくねぇな。)(ミューちゃんは、それが、特別だってさ。)(クセェ奴。)(僕もそう思ったけど、でも、一理あるんだよね。)(はーそうかよ。)(ランランだって、見つけちゃうかもよ?)(はあ?)(恋は突然に、ってね。)(うるせぇ。黙って運転しろ。)(ドイヒー!)
Love makes me Special.
(君に伝えるこの気持ちは、どんな言葉になるだろう。)







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