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恋だの、愛だの。俺には、関係のない話だった。自分とは、かけ離れたような存在で、それに悩む男女に対してかける言葉はない。自分に必要としていないものを、理解できるはずもなかった。だから、常に俺はそれを傍観しているだけ。
それが、狂ったのは、いつだったか。自分の近い存在が、それに悩んでいるのは、奇妙なことにも感じたもので、興味がないことに変わりはないが、少しずつ、自分の周りで起きる変化を、自分事のように感じていく気がした。
とはいえ、もちろん、自分がそういう感情を誰かに持ったわけではない。そうではなくて、そいつらの背中を、押してやりたい。そう、柄にもなく思ったんだ。他人のプライベートなんて、どうだっていいことだったはずが、本気で誰かを想うその姿は、俺の心をいつしか変えてしまった。そんなことを出来るのは、音楽くらいなもんだったのにな。他人の姿に絆されるのも、まあ、悪くはないなんて。過去の俺が見たら、鼻で笑っちまいそうだ。


嶺二が、恋をしたのは、もう1年近く前だった。本人に聞いたわけじゃない。少しだけ、奴の雰囲気が変わった、ただそれだけだ。多少長い間一緒にいたんだ、分かるに決まってる。
寿嶺二を作るのが得意なアイツが、そんな違いを見せるとは思ってもいなかったが、それだけイレギュラーなことが起きたんだと、すんなり受け入れた自分がいた。相手は、何度か顔を合わせたことのある女で、華やかな印象があるわけじゃない。素直に言ってしまえば、どこにでもいるような、一般女性。ともだちの友人でなければ、俺達も出会うことはなかっただろう。
何がいいのか、を聞いたこともない。俺には分からない魅力を、嶺二は見つけて、そして、どうやら、真剣に想っている。距離を詰めようとして失敗したこともあったらしいが、最近では、それが随分と吹っ切れたように見えた。

今日の収録でも、珍しく女性誌を手にして、随分難しい顔をしていた。嶺二に女心が分からない、っていうなら、俺達にはもっと分からねぇもんだな。カミュは相手がいるってか?違う、アイツの場合は、女心じゃねぇ、特別な相手にだけだ。嶺二もよく知っちゃいるが、あの女は、参考になりゃしねぇ。普通の概念を捨ててきたような奴と、嶺二の想う女は、全く違う。むしろ、正反対だ。
俺も、嶺二も、藍も、カミュも、たった4人を取り上げてみても、全員がちがう。十人十色、とはよく言ったもので、誰一人同じ人間はいない。女性も同じだった。さっき、嶺二と仲睦まじげに話していたメイクをしていた女も、普段からバカを言い合うともだちも、そして、心底アイツが想うなまえも。
嶺二が悩んでいるのは、俺にでも簡単に分かった。そして、その内容を誰にもわざわざ言わないことも知ってる。答えを持ち合わせているわけでなくても、たまには同じチームの相棒に、頼ってくれたっていいのにな。なんて、それすらも、俺達は互いに言わない関係だった。全部を言葉にするなんて、ダセェ、だろ。

まだ日差しの眩しい車内。サングラス越しに見る嶺二は、バカを振舞っていながらも、本来、そうじゃない奴だった。


「ランランにはお見通しかあ。」
「ったく、何悩んでんだ?」
「ん〜、伝え方って難しいなって思ってさ。」


誤魔化したように笑うのは、決まって、ばつが悪い時。そうだな、真剣な話をするのは、らしかねぇ。だが、これだけは、真剣に言わなきゃならない。なぜなら、お前が”本気”だからだ。


「お前は、お前の言葉で伝えればいいだろ。寿嶺二の言葉で、勝負すればな。」


そんな簡単なことにも気付かないほど、恋というのは人を狂わせるものらしい。
俺の言葉に、くしゃり、と嶺二は笑った。ったく、らしくねぇ顔すんなよ。俺まで、らしくねぇ気持ちになりやがる。気付かないふりをして、窓の外に視線をやった。

欲しいモンなら、死ぬ気で奪いにいけばいい。自分を信じて、前に進め。俺等は、今までもそうしてきたし、これからも、そうだろ?




(ランランの番がきたらさ、)(は?)(んもう、ランランだって恋するかもしれないでしょ。)(さあな。)(すぐそう言う〜!)(求めてねぇ。)(僕だって、求めてたわけじゃないよ?)(じゃあ、なんでだよ。)(何でかな、分かったら恋とは呼ばないのかもしれないね?)(なんだそりゃ。)(自分で理解できるものって、この世界には少ないのかな、って思っちゃった。)(そーかよ。)(興味なさそうだなあ、んもう。)(恋だの、愛だの、俺には関係ねぇだろ。)(ランランにもいつか来るよ。)(知るか。)(つれないなあ。)(うっせえ。)(でも、ランランの番がきたら、ちゃんと掴んでね?)(来たら、な。)
Love makes me Special.
(俺には、まだ見ぬ"特別"という存在。)







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